第198話 ひとつにも答えの出ないまま

自分の方に駆けてくるヘラジカの仔と、追いたててくるサンスポットを見ながら、アマリリスの頭の中では峻別もままならない思考や自問が交錯していた。

それらのひとつにも答えの出ないまま、アマリリスの手足は勝手に動いて、隠れていた場所を飛び出し、仔ジカの前に両手を広げて立ちはだかっていた。

仔ジカのみならずサンスポットまで、驚愕に立ち尽くしたようだった。


アマリリスにはずいぶん長く感じられた数瞬ののち、子ジカはトコトコと数歩後ずさってから、後肢で少し立ち上がるようにして身を翻し、向きを変えた。

サンスポットをかわして、もと来た方向へ駆けて行く。


サンスポットが追いすがり、再び向きを変えさせようとする。

子ジカはその都度ジグザグに迂回するものの、母ジカの方へ向かうのをやめようとしない。


母ジカたちの吠え声が、心なしか歓喜の響きを帯びている。

一度は女首領のオオカミたちに屈服したかに見えた老母ジカが、その体に残る最後の力を振り絞ってなのか、谷の縁を回ってこちらに向かってくる。


母ジカ2頭を崖ぎわに押さえ込んでいた、オシヨロフの包囲網が動いた。


アマロックがサンスポットに加勢し、子ジカを追いたてにかかる。

アフロジオンが谷を渡ってくるヘラジカと、女首領のオオカミ群の前に立ちはだかり、

残る3頭で、子ジカに駆け寄ろうとする母ジカ2頭を押し戻そうとする。

しかし、そのいずれの試みも、あまりうまく行っていなかった。


獣の姿のアマロックが短く吠えた。

そしてそれまでとは明らかに違う加速で、子ジカ目掛けて疾走して行く。

それを合図に、オシヨロフの群は一斉に、子ジカ目がけて殺到した。

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