第66話 Blanket Toss#1

クジラ料理が食べられるというので、クリプトメリアに連れられて、町の方へ入っていった。


河原の広場に高いポールが立ち、てっぺんから四方に張られたロープに、色とりどりの旗の飾りつけがされている。

その下に人だかりが出来て、中央で大きな鍋が湯気を上げていた。

ラフレシア人も山の民も入り混じって、大鍋から取り分けて配られる料理をすすっている。

木を削った椀と箸を、アマリリスとヘリアンサスも一つづつ受け取った。



細かく刻んだ鯨肉と海草の素朴なシチューは、残念ながらウィスタリア人の口には合わなかった。

黒いつるんとした皮は、まるでなめし革を噛んでいるような歯応えで、半透明の身はおそろしく脂っこい。

何より、臭い。

ヤギやヒツジ肉の臭みとも違う、海獣の臭いなのだろうか。

そこへ味付けに、発酵した魚の塩漬けか何かが加わり、さらに生臭い。



持て余し気味でいるところへ、山の民の若い男が話しかけてきた。

言葉は通じなくても分かる。この雰囲気はナンパだ。

へぇ、山の民でもナンパするんだ。

妙なことに感心して、アマリリスは冷ややかに相手を眺めた。


服装についてはこれだから、センスを論じようもないが、背が高くすらっとしている。

顔立ちが違いすぎて、カラカシス人の美的感覚では評価できないが、

初対面の相手に物怖じせず、にこやかに話しかけてくるのは、自分をイケメンだと思っているあらわれだ。


「仝〆々,ヾ? ∥ゞゞ・・・」


「んー? むふっ。」


アマリリスが笑顔を見せると、若者はさらに勢いづいて、大きな身ぶり手振りを交えて喋りだし、あげくに踊りはじめた。

まわりの山の民はやんややんやと笑っているが、バック転までして見せたのには、若干引いた。


山の民の尺度で一幕を踊り終え、満足げに息を弾ませた若者はアマリリスの手首をむんずと掴み、

山の民とラフレシア人が群がって輪を作っている方へ、ずかずかと歩いていった。


「あぁん、ちょっとぉ、、」


それでも、まだアマリリスは笑っていた。

何かのゲームをしているらしい人だかりを指さして、若者が同じ言葉を繰り返している。

4、5回目で、それがラフレシア語であることに気付いた。


”猛・鼻毛”

、、いや。

”もうふ・な毛”

、、”毛布投げ” ?


丸めて束ねた毛布を投げ合うシーンを思い浮かべた。

いやいや、それはむしろ枕投げ。。。


はっと我に返ると、輪になった人の列の中央に押し出されていた。

輪の内側には、まだら模様の絨毯が敷かれている。

イヤな予感がした。



山の民の陽気な掛け声を合図に、輪の周縁から、アマリリスの立っている中央に向かって、地面がせり上がっていく。

八方に引かれる敷物の張力によって、アマリリスの体は勢いよく、天高く打ち上げられていった。


”毛布投げ”


それはラフレシア語の取り違えで、正しくは毛布が主語となって、人間を投げ上げる、の意だった。

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