第67話 Blanket Toss#2

町が、森が地平線の下に沈み、天が上から落ちてくる。

かと思うと反転して、天は遥か高く遠ざかり、建物の間、人間の輪の底に吸い込まれて行く。

そして再び天へと投げ上げられ・・・


『や

え』


『おろ

して

え』


恐怖を感じる本能以外、全てを失って喚くウィスタリア語は、山の民の耳には、楽しげな歓声にしか聞こえない。


空の高いところで急に翼が折れて墜落する鳥は、きっとこんな気分だろうか。

あたしは今、空に向かって落下しているのか、大地目がけてはね上げられているのか・・・

・・・しかもこれ、パンツ丸見えじゃん!!


必死にスカートの膝を押さえ、もうだめ、漏れる、、、

と思ったとき、足下の毛皮は彼女を投げ上げるのをやめ、アマリリスは漁網に絡めとられた大魚のような格好で、しっかりした地面の上に下ろされた。


毛皮を引っ張っていた人たちが拍手し、はやし立てる。

さっきの若者が近づいてきて、笑いながらアマリリスの背中を叩き、肩をゆさぶった。

その手を払い除けて跳ね起き、涙の滲んだ目で睨み付けた。


ダマされた、怖いことされた、パンツまで見られた。

あり得ない、

超ありえない。

絶対いつか仕返ししてやる


涙を拭いながら、人垣を押し分けて飛び出した。

後に残った若者は、困り果てた薄笑いを浮かべて肩をすくめ、周囲から冷やかし笑いがおこった。


人垣を離れたところでぺたりと座りこんだアマリリスに、大笑いしながらヘリアンサスが寄ってきた。


「大丈夫!?

パンツ丸見えだったよ」


「うるっさい、バカ!!」


まだ地面が揺れている気がする。

ただでさえ、さっきのクジラ汁で胸焼けしてるのに、なんだってこんな目に。。。


ため息をついて、人だかりの方を眺めた。

今度は、さっきの若者が高々と宙に舞っている。

なるほど、ああやっていたのか。


大きな海獣の毛皮を継いだ円形の敷物を、周囲の人が総出で持ち上げ、上にのせた人が上下するのに合わせて引いたり緩めたりする、人力のトランポリンだ。


旗を連ねたポールと同じくらいの高さまで、若者は舞い上がり、空中を歩くように動き、えび反りになり、宙返りをし。

それを見ているうちに、激しい怒りも収まってきた。


何て伸びやかに舞うことだろう。

あんなふうに舞うように、何のわずらいもなく自由に生きられたら・・・


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