第256話 孤立世界の二人#1

「やーーー、びっっしょぬれ。

超ひどい目あったー。」


「大変だったね。

はい、タオル。」


「ありがとっ。」


アマリリスは指先から雨水の滴る手で、ファーベルの差し出したタオルを受け取った。


しかしまずは、この格好を何とかしないと。

ずぶ濡れになったセーターの前を留める鹿角のフックを外し、苦労して両腕を引き抜く。

続いてブラウスを脱ぎ、キャミソールを勢いよく捲り上げると、

脱いだものを順番に受け取ってくれていたファーベルが、くるりと背を向けた。


・・・あら。

肩まで脱ぎかけていたところで、アマリリスも手を止めた。

別に気にすることないのにさ、今は女同士なんだし。


急に気恥ずかしくなり、かといってそのままでいるわけにもゆかないので、そそくさと残りの濡れた衣服を脱ぎ、タオルで体を拭った。


洗い場で濡れた服を絞ってくれているファーベルに声をかけた。


「セーターのポッケに、キトピロ入ってるよ。」


「ん?

あ、ほんとだ。もう出てるんだね。」


ずぶ濡れのセーターのポケットで当然ずぶ濡れになり、お世辞にも美味しそうには見えない山ネギやフキノトウを、ファーベルは丁寧に取り出して調理台に並べた。


「ヘリアンとはかせは?」


「今日は帰ってこないんじゃないかなぁ。

海もだいぶシケてるでしょ。」


「あれま。」


肩に羽織ったタオルで髪の水気を取りながら、流し台の上の窓に近づいた。

外は春の嵐というにも過激な荒れ模様で、ざーっと音を立てて雨粒が窓を叩いていく。

時折雲の間に稲光が走り、天が割れるような雷鳴が轟く。


「大丈夫かな。オロクシュマを出てないといいんだけど。」


「まぁいいじゃん。

今夜は女子限定!で仲良くやろーぜ、ファーベルちゃん。」


「やーん」


アマリリスがふざけて背後から抱きすくめると、ファーベルは子どもっぽくはしゃいで身をよじり、アマリリスの腕をすり抜けて食卓の向こう側へ逃れた。


「ちっ、逃がしたか。」


ファーベルは笑いながら、その目にかすかに、本当の怯えの色らしきものを映しているのを見て、アマリリスは申し訳なく思った。

しまった、いきなりフザケ過ぎたか。


「ごめんね?」


「んーん? どうして?」


よかった。

取り越し苦労だったようだ。


「それよりもごめんね、お風呂入りたいでしょ?唇まっつぁお。

でもお風呂場水浸しで、たぶん火つかないかな。。。」


「いいいい、そんなの。

代わりにファーベル、悪いけど二階うえ行って、あたしの着替えを、、」


「はいはい、只今。

ペチカのお部屋行ってて。」


居間のことをファーベルはこう呼ぶ。

なんだかおままごとの部屋みたいで可愛らしい。

あたしは今、ファーベルが可愛くて仕方がない。

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