第291話 オロクシュマ聖贖罪教会#2
何もない空中を、どういうからくりで円環が浮かんで動くのかと、ファーベルとヘリアンサスはじっと目をこらした。
これもまた不思議なことに、糸で連ねられているわけでもないのに、まるで目に見えないラベルに印字されているかのように、規則正しく並んだまま櫃を中心とした円環上を巡っているのだった。
ファーベルは意外と科学者の娘らしく、これは、文字の形に切り抜かれた薄片を、磁力のような特殊な仕組みで制御しつつ浮遊させているか、
そうでなければ、幻燈機のような原理で、櫃から照射した文字の映像を空中に投影しているかのどちらかだろうと予想し、どちらなのか見破ろうとしていた。
一方ヘリアンサスは文字の配列の意味に注目していた。
愛・信頼・苦悩・・奇蹟・・・再生。
と、彼も知っているラフレシア語の単語がいくつか読みとれた。
二人それぞれ知りたかったことが、十分に見届けられないまま櫃は動きはじめ、仮面の男に担がれて教会の中に運ばれていった。
後には二人と、見知らぬ男が残った。
男の視線を感じて、二人は俯いた。
灰色のマントが揺れ、男はゆっくりと近づいてきて二人の前に立った。
この位置から見上げれば、さっきは見えなかった男の顔を確認することも出来そうだったが、二人とも下を向いたまま顔を上げようとしなかった。
「お時間を取らせましたね。
参列下さってありがとう。」
柔和な印象そのままに男が声をかけてきた。
その声に、ヘリアンサスは思わず顔を上げそうになって、慌てて目を伏せた。
「お連れの方はどうされましたかな。」
「えっ、、と・・・
多分、どっかに、、」
お連れの方、というのが具体的に誰かのことを言っているのか、そうでないのか判断がつかず、ファーベルは曖昧な返事を返した。
「中でお待ちになりますか?」
「「いぇっ、大丈夫です!!」」
二人の声がハモった。
「そうですか。では、私はこれで。
ああ、宜しければこれを。」
「えっ? あ、はい、
ありがとうございますっ!」
男が差し出した青い表紙の冊子を、よく見もせずにファーベルは受け取った。
「さようなら。
あなたがたに
ヘリアンサスがようやく顔を上げると、男はマントを翻し、教会の中に入っていくところだった。
その背後で、がらんと音を立てて扉が閉まった。
「”青いイルカの島”・・・お話の本みたいね。」
「・・・」
ファーベルが冊子をパラパラめくりながらつぶやいた。
ヘリアンサスは閉ざされた教会の扉をじっと見つめていた。
「行こうか?」
「・・・そだね。」
ファーベルに促され、ヘリアンサスはやっと動き出した。
遠ざかってゆく二人の背後で、教会の扉がふたたび、音もなく開いた。
中に入っていった仮面の男たちも、帽子とマントの男の姿もそこにはなく、がらんとした堂内正面の
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