第421話 異能王の戦場#2
前哨から伝送された敵陣の情報を検分する限り、南面から山を登ってくる部隊に、白の渠魁の参戦は認められなかった。
何らかの理由で戦列を離れたのか、あるいは本隊とは別行動をとっているのか。
守護鎮台は周囲の岩山を、たなびく噴煙の靄を透かして、ほのかに色づきはじめたスゲの葉が揺れる尾根を見回した。
油断ということを知らないヴァルキュリアの兵も、第3波の攻撃は予想していなかった。
轟音とともに、堅固を誇る堡塁の防壁が揺れ、地下に通じる階段から、土煙の混じる爆風が吹き上げてきた。
地下隧道の監視兵が送ってよこしたのは、粉々に吹き飛んだ隧道の壁の奥で、ズタズタになった
その形象が、もうもうと煙る土煙の中でかろうじて見えていたのも束の間のことで、次の瞬間にはその視界も暗転し、戻ることはなかった。
地下を掘り進んできた敵に、堡塁に直結する隧道を攻略されたのだ。
堡塁守護隊ほぼ全軍で防壁上を固めていた黒の旅団は、その4分の1を割いて侵入者への応戦に向かった。
開放空間での戦闘を想定した長柄刀、投擲槍などの装備から、隧道戦闘のための短剣、鎚矛への持ち替えに時間がかかり、不十分な装備で向かわざるを得ない兵士も多かった。
その間にも敵は続々と現れて地下隧道にあふれ、すでに堡塁直下に迫っている。
守護鎮台はやむなく、更に4分の1の兵士を地下の防戦に向かわせた。
その時、堡塁の
””左8分の1方向より敵接近❗ 白色旅団の巨躯兵複数❗❗””
雲の中にいる太陽に面してやや左下、荒れ果てた溶岩ドームの尾根を疾駆する6体の姿があった。
”白の渠魁”を先頭にした魚鱗がかりの隊形、数対の腕も歩行肢として使い、獲物に追い迫るハンミョウのような速力でこちらに向かってくる。
その機動は、ヴァルキュリアの歴戦の長手にすら到底不可能な鬼神の業に見えた。
””防壁守備隊全軍、迎撃用意❗❗””
戦端を開く以前に兵力を半減させてしまった防壁守備隊は、半月堡の絡繰戦隊を前面に、堡塁東翼に集結した。
崩れやすい砂礫の急斜面をものともせずに駆け上ってくる敵に向けて、
それらはことごとく、嘲笑うかのような軽々とした身のこなしで躱され――
いや、期待もしなかったことに、2体の敵を打ち砕き、あるいは串刺しにした。
これならば、あるいは勝機も。
守護鎮台が手応えを掴んだ時、白の渠魁を含む残る4体は、絡繰兵器の俯角が取れない堡塁基部に取り付いていた。
兵士たちは胸壁から身を乗り出し、石垣をよじ登ってくる敵に向けて、投擲槍の雨を降らす。
しかしそれらは、降りかかる松葉を払うように、巨躯兵のひと撫でではねのけられてしまう。
その時、胸壁直下に並ぶ矢狭間が、内側から爆発するように砕け、登攀してくる敵の上に砂礫の飛沫を浴びせかけた。
攻撃とも言えない攻撃にむしろ警戒したように、白の渠魁は暫し進撃を停止した。
防壁に空いた大穴から、黒い巨群が一斉に姿を現した。
垂壁に手掛かり足掛かりを求める要領や重い体重を移動させる身のこなしは、白の渠魁のそれに比べて明らかに
上手から攻め下ろす地の利に加え、合計12体の数を頼りに、黒の巨躯兵団は、2日ぶりにして旅団の命運を賭した戦場に、雪崩をうって突入していった。
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