第563話 水底乙女の泉#1

「・・・・・」


泉は、湖水と呼べるような規模のものではないが、

そのつもりがあればボートを浮かべてささやかな船遊びができそうな広さはある。

深さもそれなりにあるようで、岸から数歩先はもう、水底が見透みすかせない深みだった。

吸い込まれそうな水面をしばらく、3人は黙って見つめていた。


3人ってあれ、スネグルシュカは??


ここはもう、星の宮の庭園の外だろう。

羊歯シダの花の灯りと、小川というはっきりした道しるべがあるもんだから、前進するのには困らず、途中で置いてきてしまったようだ。

具合が悪そうだったのに。


心配になって引き返そうとすると、赤い光の届かない木立の暗がりから、

フワフワと漂う白い光が近づいてくるのを見つけて、アマリリスはホッと胸を撫で下ろした。


体調も復調したのか、足取りもしっかりしていて、その身が発する白い燐光も、

最後に庭園で別れた時に比べ、曇っていたを新調したランプのように、くっきりと明るくなって思えた。


「・・・・・」


アマリリスはそれでも、自分では説明し難い熱心さで、じっと雪娘の造象を見つめていた。


”おまたせっ!”


その言葉遣いから、すっかり元通りのスネグルシュカに戻っていることが分かったが、

どういうわけか、囁くように潜めた声だった。

スネグルシュカに手招きされて、3人、特にレヴコーは身体を二つ折りにするようにして、その口に耳を近づけた。


”ありがと。

水の中の人たちに聞かれたらおじゃんだからね。


さていよいよ、アーニャ救出大作戦、決行!のお時間です(パチパチパチ、、


コホン。

さて、『本物の』アーニャは今、水底の乙女ルサールカになって、この泉の水底にいます!

ちなみにアーニャ、水底でも乙女たちに大人気で、水底乙女クラブ会長、的な立ち位置です。

そして何と、ウェージマ妖女も水底乙女に化けて、クラブに紛れ込んでいるんですってーー!


誰がウェージマ妖女なのか見破れたらアーニャの勝ち、晴れて泉から解放!

なんだけど、さすがはウェージマ妖女、なかなか尻尾を出しませんーー😿

そこで、イワン・クパーラの羊歯の出番となるわけですねぇ。


もうすぐ水底乙女たちが泉から出てくるから、そうしたらその花を泉に投げ込んで、

レヴコーとオクサーナに、ウェージマ妖女を見つけ出して欲しいのです~~。”


2人は当惑しているようだ。

口を閉ざすレヴコーにかわり、オクサーナが心配そうに尋ねた。


”どうやってウェージマ妖女を見分けたらいいの?

何か目印でも?”


”だーいじょうぶ、だいじょうぶ。

2人が力を合わせれば、きっとうまくいくから👌

ボクはもともと黒子(白いけど)、この先の脚本は、キャスト自身が決めるのだにゃん😽”


とはいえ花を泉に放るということは、大役の瞬間には2人をつなぐか細い糸を手放さなければならない。

なおも覚悟の定まらないオクサーナとレヴコーの前で、泉が仄明るく光りはじめた。


水底から、淡い薄緑の光を纏った影がいくつも、水面を目指して泳ぎ上がって来るところだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る