第566話 裏切りの忠犬

裏切りの忠犬ワリーの跳躍は、まさにその牙がオクサーナに達する直前、

レヴコーが振り下ろした手斧の背に叩きのめされ、ワリーの体はまるで破城槌の直撃を受けたみたいに跳ね飛ばされた。


地面に叩きつけられたワリーは、血反吐を吐いてのたうち回り、もがき、なおも立ち上がって戦おうとした。

レヴコーは大きく踏み込んで、とどめの一撃をその脳天に見舞った。

岸辺の草の上に脳漿が飛び散り、ワリーは末期まつごの痙攣に体を震わせた後に弛緩し、二度とは動かぬ骸となった。



一刹那にして永遠にも感じられた戦いに、さしものレヴコーも息を切らせ、

悄然として、今にも倒れそうなオクサーナの肩をその逞しい腕に支え、恐ろしい殺戮者の、今や無残な末路を見つめていた。


オクサーナの肩を――

あ。


いつの間にか、水底乙女ルサールカたちの姿は消えていた。

それでも周囲は従前のような真っ暗闇ではなく、森の樹々の形や、遠影の丘までがぼんやりと見分けられた。

世界は一足先に、その導き手の光明を取り戻しつつあるようだった。


ワリーの死骸から、大小、色とりどりのホタルのような光点が、はじめはポツリポツリ、

やがて勢いを増して湧き出してきた。

渦を巻いて吹き上がった光の竜巻は、やがて天球にぶつかって四方に撒き散らされ、各々に収まりどころを見つけて星となった。

最後に、丸い、青白く煌々と輝く月が現れ出て、星々の輝く夜空へと、ゆっくりと昇っていった。


長いこと地底の暗闇で過ごした人が地上に出てくると、それが夜であってもまばゆいまでに明るく感じるという。

それはちょうどこんな感じなのだろうか。

月光に白々と照らされ、藍色の陰影から浮かびたつ野山、枝葉の茂りの間から仰ぎ見る、星々の煌めき。

元通りの、穏やかな大気の夜が戻ってきただけなのに、明るさのあまり目を開けていられないように感じた。


小夜啼鳥ピドールカの鳴き声が、梢のどこからか聞こえてきた。

女帝陛下からの賜り物の小鳥。

金の羽根にサファイアの目、とはどんなものか興味をそそられるが、

その歌声を楽しむには、声はすれども姿は、のほうが相応しいかもしれない。


高らかに、誇らしげに響き渡る声は、歓喜と祝福の歌だった。

世界が月と星を取り戻した喜び、新たに生まれた男女一組の絆への祝福だった。


月と星と祝福の歌声に囲まれて、

オクサーナは恥ずかしそうに目を伏せた。

レヴコーは実直な人間だけが持つ真摯さと、限りない慈しみで彼女を抱き寄せた。


ぽふぽふぽふ、というスネグルシュカの拍手につられて、アマリリスも小さく拍手を送った。


「ひゅーひゅー、むふん😽

末永く、お幸せにねっ⭐」

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