春風のスネグルシュカ
第567話 その人はまだ、閉じ込められたまま
愛しあう2人の邪魔をすることもあるまいと、
アマリリスとスネグルシュカは早々に、2人で星の宮の庭園へと戻ってきた。
「お疲れさんでしたっ!」
「あんたこそ。
ていうかあたし、何もしてないけどね。」
スネグルシュカのお使いで、
「ううん全部、お姉さんのおかげだよ~~」
「・・・これで全部、一件落着ってことでいいの?」
「お姉さんに、何か心残りがなければ。
最後にもっかい、ビサウリューク[仮]喚んじゃう??」
「もぉー、いつまでそのネタ引っぱる気よw」
「むふん。
お姉さんが心残りじゃなくなるまで、かなっ。」
最初から心残りなんかじゃありませんから、と言い捨てながら、何か引っ掛かるものがあった。
いや、ビサウリューク[仮]のことじゃなくて。
何だろう、何か忘れてないっけ。
しゃんしゃんと鳴る鈴の音が、木立の向こうから聞こえてきた。
やがて現れたのは、
鈴の音に重ねて、車輪が小路に敷かれた白砂を踏んでパチパチと爆ぜるような音をさせながら、馬車は2人の前に来て停まった。
「あーー、おじいちゃん。
迎えに来てくれたんだぁ。」
馭者席から下りてきたのは、スネグルシュカがテンプレままの
見間違えようもない
真っ白い長い髭、ラフレシアの広大な国土を覆い尽くす冬の化身であるがゆえの大きな体を、
一層大きく見せているカフタンや帽子は、雪の白さとともに、氷の青を思わせる配色が多用されていた。
西ボレアシアの親類が、冬の季節にあえてといった印象の、鮮やかな赤い衣装なのに対し、
ジェド・マロースはその名の通り、まず何よりも、ラフレシアの冬の酷寒の象徴なのだ。
駆け寄ってきた孫を大きな体に抱きとめ、ジェド・マロースはさも嬉しそうに言った。
「まーったく、冬じゅうどこをほっつき歩いておったのかねこの腕白雪娘ときたら。
とんと姿が見えんもんだから、新年祭のプレゼントはワシ一人で配りきったぞい。」
「わーおじいちゃん、大変だったねーー!
さぞお疲れでしょう。」
「なんのなんのぉ、若いものにはまだ負けん、、、」
そうだよ、ジェド・マロースじゃなかったの?
”大事な人を、悪い魔法使いのビサウリュークが、ガラスに閉じ込めてどこかに”隠してしまったから、
解放してくれる人を、スネグルシュカは探してるんじゃなかったっけ?
”この世界にとって、とても、とーっても大事な人”を。
それがジェド・マロースのことだと一人合点してたけど、違った、ってことよね?
じゃぁガラスに閉じ込められたのは誰で、
その人はまだ閉じ込められたまま、解放を待っているってこと??
「むふん。」
スネグルシュカは、相変わらずうるうるお目々で見つめてくるばかりで、何も明かそうとはしなかった。
やがて祖父と共に馬車に乗り込み、
”ばいばーーい!”
別れの挨拶も元気よく、大きく腕を振って去っゆくスネグルシュカを見送りながら、
アマリリスはいつまでも、モヤモヤした心残りのような考えに囚われ続けていた。
爽やかな夜風に吹かれて、彼女の足元に咲く一房のフジウツギの花が揺れ、鈴を転がすような、
あるいは笛が鳴るような音色を立てた。
耳にする者がそう思って聞けば、そこには音節とともに意味のある文章が聞き分けられ、
恐るべき陰謀を密告していることに気づいたかも知れない。
””誰がわたしを殺したの?
そして木イチゴの茂みにわたしを埋め、墓標に笛の小枝を挿したの??
””それはね、・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
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