第546話 怯懦の願望

理屈だけ並べるなら、キスや抱擁といった行為以上のことを期待してもいいはずだった。


マフタルやバハールシタがそうだったように、魔族といっても身も蓋もない功利主義と無関心ばかりとは限らない。

アマロックだって、ファーベルに対してはパブロフシステムが働いていた ―― 愛していたのだ。

だったらいつかは、アマロックの中にあたしが渇望するもの、暖かな、確かにそこにあると感じられる心が生まれてくるかも知れない。


そうなったらどんなにいいだろう。でも――



それ以上、アマリリスは考えることをやめた。

それはアマリリスにとって、決して実現しないと分かっているからこその儚い夢であり、

本当はアマリリス自身がそれを望んではいない、という自分の心に思い到るのが恐かったのである。

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