第26話 やっと外に出られると思ったら
まわりで複数の生き物が動き回る気配がして、アマリリスは飛び上がった。
大きな獣の姿が、何頭も闇から溶け出してくる。
ピンと立った耳、ふさふさとした尾。
オオカミだ。
ファーベルは足跡しか見たことないって、、
アマロックがちらりとオオカミ達を見回した。
ぱたりと物音が止み、彼らはじっとアマリリスを見て立ち止まった。
――そう、アマロックはこの森にすむオオカミの群れのボスなのだ。
このオオカミたちが、仲間なのだろうか。
アマロックの視線がアマリリスに戻ってきた。
促されているような空気を感じて、アマリリスは慌てて答えた。
「道に、、迷っちゃったの、ファーベルと、森に来て、、」
声がうわずった。
「ほぉ」
「キトピロ、、だっけ?取るのに夢中になってて、はぐれて。。。」
もっと安心があっていいはずだった。
遭難しかかって(或いは完全に遭難して??)、ようやく人に、しかも知り合いに出会えたのだから。
なのに、何かおかしい。
アマロックは肩から掛けているポンチョのような布の下で腕を組んだまま、この森そのもののようにじっと黙っていた。
そうするともう、アマリリスには言葉が出てこなかった。
アマロックがゆらりと動いて、 ふたたび木の影になり、表情が見えなくなった。
そしてようやく魔族は口を開いた。
「それは、大変だったね
さぞかし心細かったろう」
言葉の意味とは裏腹に、その声には一片のいたわりも感じられなかった。
「でもね、アマリリス」
アマロックは言葉を続けた。
その声にはやっと感情らしきもの、しかしどこか、クスクス笑っているような調子を帯びていた。
「ばけものの森から、やっと外に出られると思ったら、そこは人食い鬼の巣で。
君を捕まえて食べようとしたら、どうする?」
心臓の中に氷の塊を押し込まれたような気分だった。
・・・そう、アマロックは「人」ではないのだ。
きゃぁきゃぁ笑うファーベルと、おどけるアマロック。
その姿を見たのはついこの間なのに、
いま目の前にいるのと同じアマロックのはずなのに、、、
“野生の獣なんだ“
クリプトメリア博士の言葉がよみがえる。
それから、何て言っていたっけ。。。
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