第515話 隠し切れないもの

とても、、

ねぇ、とても、とーーっても幸せなんだよ!?






二人きりになってみて、一つ気付いたことがある。

アマロックに裸の人間の姿を見られるのが、妙に恥ずかしいのだ。


妙に、といっても、アマリリスの年頃の娘が男に裸を見られるのは恥ずかしいのが当たり前で、

むしろこれまでがおかしかった、という考え方もある。


けれどこれまで、アマリリスはアマロックの前に全裸の姿を晒していても、どこか野犬の前で裸になっているような感覚で、

あまりそこに羞恥心を感じる筋合いを認めなかった。

ところが、クリプトメリア、ファーベル、ヘリアンサスたち、人間が一人も居なくなってしまい、

ワタリガラスに旅情を見出そうとするのと大差ないとはわかりつつ、人間”らしさ”を備えたただ一人の相手となってみると、

やけに自分の裸体が浮き立って思え、アマロックの前に真っ直ぐには立てない気がした。


あまりもじもじしていては、アマロックに気づかれる。

人の心などまるで分かっていないくせに、動揺とか不安とか、そういったことには異常に鋭いのだから。


――だから、隠そうとしても隠し切れない恥じらいなど、とっくに見抜かれているに決まっている。

そう考えると自分の心の中まで丸裸にされてしまったようで、ますますどうしていいかわからない。


アマロックはと言えば、薄気味悪いくらい以前のまま、、

強いて言えば、以前より、アマリリスを構って、一緒に居てくれるようになったかも知れない。

魔族なりに、アマリリスの孤独をいたわって・・・?

いや、単に、人間には理解できないたぐいの興味とかをあたしに持っているだけの可能性が高いな。


いっそ、本当に全てをさらけ出し、

いわゆる、女と男の間にある一線を越えてしまえば。

全てをアマロックにゆだねね、心までも屈伏してしまえば、

こんな立つ瀬のないような思いは治まるのかも知れない。


そうは言っても、とてもそんな勇気はなかった。

それは単に恥じらいからではなく、端的に言えばアマリリスはどこかでアマロックが怖かった。


何を考えているか分からない魔族のことだから、優しく抱かれるかと思ったら、いきなり引き裂かれて食べられてしまうかもしれない。

だがそれならそれで構わない気がする。

アマロックに自分を差し出すのは、きっと同じような事だろうから。


そうではなく、アマリリスは、自分がアマロックの全てを知ってしまうのが恐ろしいのだった。

そして思った。

せめてこの思いだけは、アマロックに気づかれませんように。


前から時々あったことだが、アマロックはたまにアマリリスもオオカミの群も置いて、一人でどこかに行ってしまう。


そして2、3日、長くて1週間ぐらいで帰って来て、

そうすると稀に、何か新しい言い回しとか、語彙を身につけている時がある。

アマリリスは考えないようにした。

どこへ行ったとも聞かなかった。


そうしているうちに時は移ろい、一年のじつに半ば近くを占めるという点で、トワトワトを代表するともいえる季節、

白魔の荒れ狂う冬がやってきた。

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