第242話 末永い生を授けよう#2
アマリリスが近づいてくることに、人魚の少女はとっくに気づいていただろう。
だからそんなに気を使う必要もないのだが、アマリリスは極力音を立てないように、灯りが直接相手の顔を照らしたりしないよう気を配りながら、人魚の近くまで行って腰を下ろした。
人魚は淀みなく、不思議な節回しの歌を歌い続けていた。
「末永い生を授けよう
遙か未来に伝えるために、
遠い世界に行けるように。
「末永い生を授けよう
世は移り国が変わっても、
草木はなお緑濃くあるように。
「末永い生を授けよう
四方世界に聳える山が、
風雨に払われ消え失せても、
「末永い生を授けよう
願わくば、海に満ちる水と砂、
そこに生きる魚たちが、
とこしえに尽きることのないように。
*+:。.。・・:。、 。.+・*、、..。oо○
人魚が人間語の歌を歌うことに、もう驚きはなかった。
クリプトメリアの喩えではないが、鸚鵡の言葉と一緒なのだ。
この少女は人間語が話せない。
彼女が歌詞を理解して歌っているのでないことは明らかだった。
こんな暗闇の中、聞かせる相手もいない異種族の歌を、一人でさえずる姿は何とも痛ましかった。
母親の人魚を飲み込んだ後、
侵略によって荒らされ、住人の半分を失った人魚の入り江は、無慈悲と不条理を嘆くように、しばらくさざ波立っていたが、今はすっかり元の静穏に戻っていた。
あのレヴィアタンは何者だったのか、何故母親は奪われねばならなかったのか、
少女は何故見逃されたのか。
そんなことは考えても意味がない。
異界とは、獣の世界とはそういうものだと考えるしかなかった。
けれどそうであっても、少女がたった一人でその事実を受け入れ、母を失った後の世界を生きてゆかねばならないことの痛ましさに変わりはない。
行きがかり上、そのことに対して、アマリリスは見届ける責任があるように感じていた。
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