第244話 何を待っているの?

「海へお帰り。」


自分の声の冷たさに少しびっくりしながら、アマリリスは魔族の少女に語りかけた。


「待っていても、お母さんは戻ってこないのよ。」


少女はふるふると首を横に振った。

おや、それくらいの意志疎通はできるのか。


言葉が通じないと分かっている相手に、外国語ラフレシア語で話しかけて、あたしはいったい何をやってるんだろう、と自分で可笑しかった。

ただラフレシア語を使ったのは、彼女が理解してくれることを期待してではなく、母国語でそれを告げるのは、やはり忍びない気持ちが強かったからだ。


人魚の少女に、ここから立ち去る意志がないことは分かった。

ではどうしたらいいのか、アマリリスは分からなくなって黙ってしまった。


そもそもナンセンスなんだよ。

彼女に立ち去るつもりがあるなら、言われなくてもそうしているに決まってる。

そうじゃないってことは、ここに居たいからそうしているのだ。

魔族は、人間からの助言など求めてはいない。


単純なことだ。

ただ、、、


『おまえは、一体何を待っているの?』


ウィスタリア語の問いかけに、人魚の少女はやはりじっと、吸い込まれそうな瞳でアマリリスを見つめていた。

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