第430話 異能王の帰還#1
「アマロック❗」
全力疾走に息を切らせ、今にも泣き出しそうな不安と、ともあれ再会できた喜びに震える声で、
アマリリスは石化の森に見えてきた愛しい姿に呼びかけた。
「やあ、
いい子にしてたかい。」
「大丈夫!?ケガは?」
「見ての通りだが、こりゃ全部返り血的なものだ。
おれ自身は、あってもかすり傷だよ。」
王者の凱旋というにはあまりにも凄惨なその姿は、煤と汗にまみれてどす黒く汚れ、
アマロックが纏っていた骸鎧とも敵のものとも知れない、血や体液を幾重にも浴び、肉片まであちこちにこびりつけていた。
しかしその体躯が放つ、不用意に近づけばこちらの身を灼かれそうな熱量は、アマロックがくぐり抜けてきた戦いの激しさと同時に、
今は静かなこの魔族が、依然としてその内に獰猛な活力を蓄えていることを示してもいた。
「おまえら!そこ、どけッ!!」
大石柱の前に並んでいた
そして迷惑そうな対応にも怯まず、相手の体を仔細に調べた。
そしてようやく安心すると、今度はお湯と血を拭う物を持ってくるように兵士に言いつけた。
「ほぉ。
ちょっと見ない間に随分と偉くなったようだね。」
アマロックは目を丸くしてから、自分でも飲み水と食べ物を注文した。
注文したものが届くのを待つ間、魔族は金色の目で、出掛けとは様子の変わった石化の森を見上げ、
アマリリスに遅れを取ること数分、姿を現したマフタルに尋ねた。
「何かあったのか、ここ?」
身につけた
あらかた装甲の剥がれた胴体からはアマロック自身の半身がのぞき、合わせて3本にまで減った四肢でかろうじて歩行できる、という有様で、
引き連れていった
補充として、戦場で
こちらもひどく損傷していたうえ、その外装甲の前身ごろには、無残に頭を砕かれた自爆兵の死骸を収めたままで、
信管を抜かれた状態とは言え、いつ暴発するかも知れない危険物に変わりはなく、すべて城砦外で爆破解体されることになった。
しかし、その華々しいとは言い難い帰還の一方で、アマロックは自身に託された要請自体は達成してもいた。
24体の自爆装置つき
そのため堡塁地下から侵入した主戦歩兵部隊も十分な援護が得られず、隧道内で立ち往生する中、地上で孤軍奮闘を続けた彼は、最終的には敵の物量を捌き切って戦場を制圧したのだ。
ようやく堡塁の城壁上に出た
そして、火山の噴煙と、あちこちで燃えくすぶる
間違いなく、敵のものだった主脈結節第三堡塁は陥落され、彼女たち
でありながら祝勝ムードに乏しいのは、
そのために払った損失の大きさもさることながら、その勝利から得られる果実が目論見よりも少なくなりそうだということ、
敗退してなお、彼女達が栄冠を戴くことを許さない敵の執念と、それを実現できる底力を見せつけられたからだった。
堡塁攻略戦の開始前・戦闘中は敵の注目を集めるための囮として、そして陥落後は周辺の領土を確保する要として、地上を進軍していった部隊、
7体の
堡塁防衛隊より少ないとはいえ、12体もの
結果、地上侵攻部隊は大きな損害を出した上、堡塁をその目で確認することなく撤退を余儀なくされた。
それにより、堡塁を核として周辺の領土を面で押さえる、という当初の計画は脆くも破綻し、敵地深く食い込んだ棘とは言えるものの、堡塁という「点」と、それを結ぶ地下隧道というか細い「線」が、この戦闘で得られたものの全てだった。
勝利を得ながらの劣勢という不合理は、一重に、戦闘に投入することのできた物量の彼我の差に起因していた。
しかもそれは、アマロックに預けた5体を差し引くと、現時点の
噴火により、素体錬成施設に軒並み大きな被害を受けた
そのような事情のない
いかにアマロックの異能が有用で強大な戦力であっても、
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