第380話 産業魔族

”その魔族は、数千〜大きなものでは1万をこえる集団を作り、人間が支配する国家のように、広大ななわばりを所有している。

人間が建築する城砦のような、いくつもの建造物と、それらを結ぶ地下道からなる”巣”を、好んで活火山とその周辺に構える。

どうも地熱を何かの産業に利用しているらしい”


聞いたときは想像もつかないと思ったが、こうして実際に目にしてもやはり信じがたい光景だった。


城砦内は迷路のような通路を基軸に、広間や小部屋、踊り場から三方に昇る螺旋階段や吹き抜けといった空間が何の脈絡もなく現れる。

歪に偏った放物線アーチの無限連鎖で構成された通路の先に、どこまでが壁でどこからが天井なのかも曖昧な曲面で構成された階段室、、と、歩いているだけで頭がヘンになりそうな気がしてくる。


それらの壁や天井、時には床を横切って、縦横に這い回る配管が目についた。

大きなものでは人が中に入り込めそうな太さがあり、細いものではアマリリスの腕ほど。


金属とも陶器ともつかない様々な素材で作られ、その表面もあるものは蛇腹、あるものは巨大なミミズの胴体のような節、

あるものは捩じ上げた鋼索のような細かな螺旋模様といった調子で、まるでこの狂った空間で異常成長した大蛇がでたらめに逃げ出してそのまま膠着したようだ。

そのいくつかは冷え冷えと結露し、あるいは継ぎ目から湯気が漏れ出していた。



「ほぇ~~、超かっこいい。

この階段のうねりかたとかありえないし、

あのダクトの継ぎ目も、エモすぎる。」


先導する一体、後ろから二体のベラキュリアに挟まれて進む通路で、マフタルは幾度もきょろきょろと脇見をし、感嘆の声を上げた。


「感心してる場合かよ。。。」


応じるアマリリスに覇気がなかったのは、この先の見通しの暗さ以上に、彼女もまたこの城砦の造形に気圧され、異様さに呑まれていたからだった。



紡錘形の小舟のような橇を綱で牽くベラキュリアと幾度もすれ違う。

橇に満載されているのは岩屑であったり、硫黄の塊、配管の部品と思しき中空の円筒や、何に使うのかもわからない奇妙な形の機械(?)など。

一方でどうやら車輪は発明されていないらしい。


卵殻の内部のような丸い小部屋には、例のゾウとラクダが合体したような動物が数頭繋がれ、小部屋の曲面から突き出た洗面台のような窪みに蓄えられた飼葉を食んでいる。


やがて通路の突き当り、壁面の岩が融解し、無数の雫となって垂れ下がっているように見えるアーチの手前で、先導役のベラキュリアが脇によけ、二人を奥へと促した。


マフタルを先に行かせ、アマリリスは首をすくめるようにして低いアーチをくぐった。

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