第413話 イオマンテ#2

「コロす、がよろ、シィ」


軍事顧問でもあるトヌペカの母は誠実な仕事をし、正体の知れない魔族の処刑を提案した。


「こぇ、ワリぃ・カムぇ・さま。

おまぇラ、かならじ、さメに・さりル、(騙される)

さメ・ざメ・なく。

そぇ、ワリぃ・カムぇ・さま、お厶かぇ・もぅス、なラば」


ヴァルキュリア達にも女の言っていることは理解できたし、もっともな主張だった。

しかし彼女たちは、アマロックが提示した対案の単純なコストパフォーマンスに注目した。

その弁明は、懸命の命乞いと受け取れる内容でありながら、まるで他人事の講評を聞くようでもあった。


「この女の言うとおり、おれがお前たちにとって有害な計画を持っているとする。

その場合、お前たちは再度損害を出すことになるだろうが、現時点ではお前たちはおれが何を出来るかを知っている。

おれの裏切りを警戒し、注意を払っておけば、2回目の被害は1回目より抑えられるはずだ。

そしてその場合、おれは確実にお前たちによって殺されることになるだろう。


おれにそのような悪意がないとする。

オオカミの群を失ったおれは、この高地で単独で生き延びることは出来ない。

その女の群族と同じように、おまえたちとの共生を望んでいるのかもしれない。

その場合お前たちは、先の戦いで叩き潰された奴らの替わりの、巨躯兵の操縦者を手に入れることが出来る。


そして赤の女王の能力は種族を選ばない。

おれは同時に5頭まで、お前たちの敵の巨躯兵を操ることも出来る。

お前たちは戦場で、予め敵の巨躯兵を5頭減らし、同数の味方を増やすことも出来るわけだ。」


それでなくとも白の旅団の戦線は深刻な戦況にあった。

アマロックによる侵入事件以来、同様の事態の発生を懸念し、狂戦士バーサーカー戦隊の運用は見送られていた。

兵卒のみの部隊では敵の狂戦士バーサーカー戦隊には歯が立たず、黒の部族の攻勢の前に、白の部族は広大な支配域を明け渡し、

要塞や掩蔽壕などのいくつかの拠点を、大量の兵卒の犠牲を投じて防衛している有様だった。

狂戦士バーサーカー戦隊の運用を再開できるなら、悪魔との取引も厭わないのが本音だ。


「悪からぬ申し出なれど、額面通りには受け取りかねる。」


「ほう。」


「貴下の命に至る道は他にもある筈。

隙を見て、或いは自ら作り出して私/我々の支配を逃れ、貴下の狼群と合流し故郷に帰還する事。

貴下が腹蔵せし了見はかような筋書きではあるまいか。」


「なるほど。

その場合お前たちはやられ損だな。」


「然らば貴下の遁走を封ずる手立てが不可欠と心得る。」


「ふむ。。。

おれを檻にでも入れるかね。」


「檻に封ぜし貴下を戦場いくさばに引き出すははなはだだ難儀にして、畢竟ひっきょう私/我々は、貴下が操りし巨躯兵の膂力りょりょくをもってしてなお、こじ開けられぬほど堅牢な檻というものも持たぬ。

より堅きは、かような檻がなくとも、貴下が逃れ能わざる状況を講ずることにある。」

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