第414話 本日の作戦を披露奉る

「傾聴ーー❗❗」


ベラキュリアの兵長が張り上げた甲高い声に、アマリリスはびくっ!として我に返った。


実際のところ、その場で彼女が傾聴を必要とする相手は一人しかおらず、大部隊を前に演説するかのようなその号令はいささか滑稽ではあった。

ヴァルキュリアが傭人やといにんに接する時はえてしてこういう杓子定規な対応になりがちだが、彼女が対面する相手――、

5体の狂戦士バーサーカーを駆り、恐るべき破壊をもたらす異能の異族は、精鋭の大部隊に匹敵する戦力でもあった。


しからば、本日の作戦を披露たてまつる。


時来たり、私/我々は本日遂に反攻に転じ、黒の旅団が主脈結節堡塁其三を攻略せんとす。

戦況は極めて当方に有利なれど、当該堡塁は寇讎こうしゅうが防衛の要にして甚だ堅固難攻なれば、事は慎重を要す。

先んじて私/我々が長手操りし巨躯兵戦隊7、目標南面を登攀し侵攻するも、こは陽動なり。

主戦兵卒部隊は近寄り敵方隧道に侵入、序盤は敵戦力の分散に注力す。

本日もなお敵方は巨躯兵運用を手控えることと見通され、れば兵卒同士、互角の戦闘とならん。


その間、異能王は尾根筋より目標に接近し防塁を突破、万が一、敵巨躯兵戦隊出撃の折は、これを最優先に殲滅願いたし。

然る後、地下よりの主戦部隊侵攻をたすけ、目標の陥落にあたられるべし。」


それに続いて、目標の堡塁周辺の地理や、地下侵入部隊と同期して攻撃を仕掛けるタイミングなど、

兵長からの作戦の詳細をあらかた聞いてから、アマロックは説明の内容とは関係ないことを尋ねた。


「あちらの奥方様ゴスポージャは今日は出撃しないのか?」


相変わらずの仏頂面で、少し離れた所に立っている刺青の女に視線を向けた。


また他の女にッ…!と突沸しかけたアマリリスだったが、すぐに自分を取り戻し、まあまあと宥めた。

魔族が相手ならいざ知らず、相手はただの人間。

こんなピチピチの超絶美少女が側にいるのに、流石にアマロックもあんなBB、、不似合いなご年齢の女性に目が行くわけがない。

それでも、オオカミの毛皮の下で組んだ腕に、アマリリスは無意識に力を込めていた。


「軍師殿は本日別のお役目がある故。

伝令役として歩兵3名が同行するが、何ら支障がおありか?」


「ふむ。それならば一つこちらから提案があるのだが。」


妙に馴れ馴れしい空気を作ってアマロックが言った。


「拝聴つかまつる。」


「かたじけない。

では提案だが、お前たちが昨日新たに手に入れた傭人やといにんを試してみる気はないかね?

オオカミのことだ。

脚は速いし、歩兵相手であれば人型の兵よりもよほど戦力になる。

金と黒、そして」


毛皮の上から、アマロックはアマリリスの右腰に腕を回し、その身に引き寄せた。


「こちらの姫君のオオカミを出撃させてくれれば、おれたちだけでもそんな砦の一つや二つは陥落させて見せよう。

どうだ?」


ウソだ、とアマリリスはベラキュリアに替わって、心の中で即答した。

オオカミが戦力になんてならない。

いくらアマロックでも、オオカミたちが嫌がることはさせられないのだ。

自分が傷つく危険のある戦場なんかに、アフロジオンやサンスポットが近づくわけがない。


命令絶対服従のヴァルキュリアにそういった事情はわからなかったかも知れないが、さすがに魂胆が見え透いていたようだ。

兵長もこれには呆れた様子で答えた。


「何とも侮られたものよ。

貴君の腹蔵せし目論見を私/我々が忘れたとお思いか。


されど得難き収穫なり。

貴君が私/我々の追跡を逃れ、斃死へいしすることなく所領に帰還せんが為、最低4頭の同胞を要すと見積おはすこと、

しかと記憶した。」


たしかにアマロックらしくもない失言と言え、これもまた珍しいことに、苛立ちも露わに舌打ちしてみせた。

しかしアマリリスは、ベラキュリアが見落としたもう一つの嘘にも気づいていた。

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