第150話 魔族の言語#3

”そんなのおかしい”


アマリリスは急に鋭く言い放った。


「豹が唸ってたら、そりゃ怖いでしょうよ。

そりゃそうよ。

でも唸り声は唸り声よ、言葉じゃないわ。


人間だってそうじゃん。

言葉が通じなくても、怒ってるか、喜んでるかは分かるわよね。

ケモノだけの話じゃないわよ、

そういうことを伝えるのに、言葉はいらないってだけよ。」


・・・成る程、道理だ。


「けど、”どうして”怒ってるのか、喜んでるのかは、説明してくんなきゃわかんないわ。

コトバで言ってくれなきゃ、わからないわ。


そうでしょ?」


「ふむ。。。


獣の唸り声が伝えうるのは、せいぜい喜怒哀楽のどれかという程度の情報でしかない。

魔族が人間と同程度の情報量の会話を行っていると仮定するならば、交信の媒体が獣の唸り声であると考えるのははなはだ無理がある、

そういうことかね?」


「まぁ。。。

そんな感じ?」


「その前提を受け入れるなら、たしかに的を射た指摘だ。

その上でしかし、繰り返しになるが、交信の手段が”コトバ”である必要はないのだよ。


唸り声と言ったのはものの例えで、実際はもっと込みいったものだろう。

例えば、発話したものを相手の解釈に任せるのではなく、相手の頭脳の中に直接情報を書き込みにゆくような方式かもしれん。」


「どうやってよ。」


アマリリスは食い下がった。

そうくるか。。

いや、この娘に、概念的な例えなど持ち出す方が愚かだった。


「そうさのう。。


幻力マーヤーでも使っとるんじゃないかね。」


その言葉を出した瞬間、アマリリスの目の色が変わった。


幻力マーヤー

幻力マーヤーって、何なの?」


クリプトメリアに訊こうと思って実験棟にやってきた用件の、それがまさに二つめだったのだ。

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