第22話 恵みの森へ

「は?森に?」


「そう。

んとねー、タラの芽でしょ。

ワラビに、タケノコ。

いーっぱい採れるんだよ。

本当は、雪解けの頃ならフキノトウも採れるんだけどね。

でもクマが危ないから、岬の外に行っちゃダメだって、お父さんが。」


「クマいんの!?」


「クマに、オオカミに、ヤマネコもいるわよ。

でもへーきだよ、襲われたことないから。」


「ほんとに?」


「うん。

獣もね、人間は恐いんだって。

春先のクマは、冬眠から覚めたばっかで、おなかがすいてイライラしてるけど、今はもうだいじょぶ。

あ、森の中で会っても、知らん顔してなきゃダメよ、ついて来ちゃうから。

オオカミとヤマネコは、足跡しか見たことない。

それにこの森のオオカミはアマロックの子分だし。」


「そう!魔族は?」


「アマロックしかいないから、だいじょぶ。

この辺は、どっちに歩いても丸三日くらいのところは、全部アマロックの縄張りだから、他の魔族は入って来ないの。」


「ほんと?ほんとに大丈夫?

あたしヤだよ、喰われんの。」


ヘリアンサスがバカにしきった顔で口を挟んだ。


「そんなに言うなら、いいから留守番してなよ。

また迷子になられても困るしさ。」


『рёдζ; Ыщвμξпδ::(うるっせぇ、バーカ。)』


ファーベルには聞かれたくない、品の悪いウィスタリア語を弟に浴びせかけ、一転笑顔になってファーベルに向き直った。


「行く行く。

連れてって、面白そう。」


「よかった。

はいこれ、ゴム長。

あ、でもほんと気を付けてね、

迷子になったら、たいへん。」


「だぁいじょぶだってば、コドモじゃあるまいし。


あーこれ、何かブカブカする。

あたしイイや。」


アマリリスは一旦履いた長靴から足を引き抜いた。


「いいの?

だってそれ、ツッカケじゃない。

結構、道悪いよ?」


「うん。

これでさんざん、山登ったり降りたりしたもの。」


アマリリスはウィスタリアの時から履いている、革のサンダルの踵を動かしてペタペタ音をさせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る