第531話 姉と雪むすめ#1

アーニャから事情を聞いたスネグルシュカは、


「それならっ!

ウェージマ妖女をとっちめに行こう!

弟くんを人間もとに戻せぇ、って。」


いや、”もと”はオオカミなんだけどね。。。


「うえじま、、?

って、誰??」


ウェージマ妖女!を知らないとはーー、不敬なり!

黒猫になってパンノチカ令嬢を襲う継母であり、

ルサールカ水底の乙女に紛れ込んだであり、

ビサウリュークの愛人にして、月と星の盗人ぬすびとであらせられる御方ぞ~~。」


ワーニャがハリネズミになってしまったのも、ウェージマ妖女の呪いなのだという。

そんな大それた御方をとっちめていいのか(スネグルシュカ雪むすめにその力があるのか??)心配だが、

スネグルシュカは張り切って、アーニャを連れてずんずん歩きだした。


暗闇の森から、鶏の脚の支える小屋を通って、うれいとうるわしのパンノチカ令嬢の邸へ。

ところが今日のパンノチカ令嬢は前回とだいぶ雰囲気が変わっていた。

パンノチカ令嬢というよりも、、?


「あたしはウェージマ妖女じゃあないわよ。」


手に持ったヒイラギの枝を不機嫌そうにクルクル回しながら、パンノチカ令嬢はスネグルシュカを睨んだ。


窓の外は、今日はこのお邸も雪景色で、松の木の枝にはこんもりと白い帽子を被っている。

大広間の暖炉には火が入っていたし、ここ炊事場では、黒い鉄ストーブの中で、薪があかあかと燃えるのが、焚口扉ザスローンカの隙間から見え、

載せられたヤカンがしゅうしゅうと白い湯気を立てていた。


パンノチカ令嬢は今日もおしゃれにしているが、

上着スウィートカと、揃いのスカートも、臙脂色のベルベットに金糸の刺繍が施された豪華なもので、

たおやかな可憐さよりは、近寄りがたいような威圧感を作り出していた。


そんな空気にはお構いなしといった様子で、スネグルシュカはスネグルシュカのまま、パンノチカ令嬢にたずねた。


「じゃぁー、お姉さんはっ!

どうしてウェージマ妖女が星と月を隠したか、知ってる??」


「ビサウリュークに頼まれて、手伝ったのよ。」


「ビサウリュークはどうして頼んだの?」


「・・・レヴコーに、復讐をするためよ。」


言葉少なに答えると、パンノチカ令嬢は何かを取り繕うような仕草で干し肉の一片を取り上げ、

今日も彼女の足元に侍る飴色の犬に差し出してやった。


「どうして星と月を隠すと、レヴコーに復讐することになるの??」


「・・・どうして、、レヴコーは、どうして?」


はじめ高慢な苛立ちを見せて答えていたパンノチカ令嬢は、自分が演じる物語の筋書きを忘れてしまった役者キャストのように口ごもった。

スネグルシュカは、毛皮外套シューバの袖をひらひらさせる舞をしながら歌った。


「♬ブゲンジャー、♫レヴコー、どんだけリッチマンっていってもさーー

♫スマイルー、♬レヴコー、お金じゃ買えないものもぉ、いっっぱいあるよねぇーー

#あるかなぁ?そうかなぁ?

愛しい人の心とかぁ♫ 眼差しほんの一瞥さえもぉー♬」


どうやら今日のパンノチカ令嬢は、レヴコー青年の求愛を冷たくはねつける、高慢のパンノチカ令嬢の役どころでもあるらしい。

そりゃ、本人も混乱するわけだ。

一方で、継母のほうは、ウェージマ妖女なんて属性が追加になったけど、2人の恋の成就を妨害する役割に変わりはないらしい。


「♬ツンデレ~~のデレぬきーーなパンノチカ令嬢のハートを掴むにはーー?

ココン・とうざい・イイ女ーー、はいつもムチャ振りーー♪

パンノチカ令嬢の出す無理難題にー、みごと応えてみせるのだぁ♫


さぁ今日のパンノチカ令嬢は、レヴコーに何ねがうのですかぁ??」


「・・・・・コムギを、、」


パンノチカ令嬢は困惑しきった様子で、形の良い額に皺を寄せて考え込んでから、自信なさそうに言った。


「ヒエとアワと混ざった、穀物袋いっぱいのコムギを選り分けてもらう。。」


「ダメダメぇ、そんな芋くさい仕事、

パンノチカ令嬢たるもの、そういうのは騎士の2人か3人でも召喚して片付けさせなさいっ♫

もーーっと無理ゲーで、かっこいい仕事じゃなきゃ!」


「・・・・・ケシの実を、、」


長考の末、消え入るような声でパンノチカ令嬢は応えた。


「砂粒と混じった、穀物袋いっぱいのケシの実を、、」


「う~~ん、困ったにゃん😿

いっかい穀物袋から離れようか、ね??」

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