第305話 溢れ出る感情
”たすかった、、、ウソみたい。”
うっかりすると自分も膝が抜けてしまいそうだったが、アマリリスはファーベルを支えて何とか立ち上がった。
アマロックの姿が目に入り、感情が一気に
”アマロ、、っぐ”
思わず声に出かけたところへ、みぞおちに軽い衝撃を感じて息が詰まった。
ファーベルが腕の中で身を翻し、アマロックに向かって駆けだしていったからだった。
”あ、まって、あたしが・・・”
この時ばかりはなりふり構わず、自分を優先したかった。
何ならファーベルを追い抜いて、アマロックとの間に割って入りたい。
それくらい彼女を駆り立てる衝動は大きかった。
けれど泣きじゃくる子どもの顔になってアマロックにすがりつくファーベルと、その背中をしっかりと抱いているアマロックを見て、
やっぱりこれで良かったと思いなおした。
クリプトメリアは、ライフルを肩紐に吊って背中に押しやり、入れ替わりに肩に掛けていたもう一つの銃、ポンプアクション式の散弾銃を携えて、アマリリスとファーベル達の間を横切っていった。
腕だけ、それも片方は肘で千切れた腕でなおも這いずっている怪物の後ろに回り、慎重に距離をとって発砲した。
それで怪物の胸郭はあらかたなくなり、脊椎と皮だけで繋がっていた下半身と分断された。
轟音にファーベルはびくりと身を震わせて、いっそうきつくアマロックにしがみついた。
アマリリスは何か抗いがたい力に引き寄せられて、クリプトメリアと、無惨な怪物の死骸のほうに近づいていった。
怪物はようやく動きを止めて死んだようだった。
クリプトメリアは山刀を抜き、アマリリスをちらっと見た後、軽い一振りで怪物の残った片手を切り落とした。
そして、薪でも割るような手つきで2、3度怪物の後頭部に切りつけてから、山刀の刃を
それを山刀の切っ先で引っかけて、先ほど切り落とした手首に重ねる。
さらにアマロックが最初に引きちぎった片腕を、やはり山刀の先に突き刺して拾ってきた。
「何・・・してるんですか?」
クリプトメリアの余りに奇妙な行いに、おずおずと問いかけた。
クリプトメリアはちょっと困った顔をして、
「山野で毒蛇を殺したら、、その頭部は燃やすか埋めるかするのがマナーだ。
そんなことがどれだけあり得るのかわからんが、誰かがその死骸を踏んで、毒牙に傷付けられることも、可能性としては否定しきれんのでね。
それと同じことをしとる。」
「はぁ? 何て、、」
言いかけた言葉を途中で飲み込んだ。
怪物の頭から切り出された切片の内側でわさわさと動く、フナムシの脚のようなものに気付いたからだった。
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