第304話 殺戮のとき

”ああっ、このやろう!!!”


すっかり鎮まっていた闘志に火がつくも、すでに絶望的に遅く、ファーベルは余りに無力だった。

それでもアマリリスは、次の瞬間に起こることを絶対に認めたくはなかった。



そのとき、アマリリスには、ファーベルの前に大きな鳥が飛び込んできたように見えた。

ふわりと舞い降りたそれが、突進してくる怪物と重なる。

巨大なハンマーを振り下ろしたように、ずどんと重い音、骨の砕けるけたたましい音が重なり、ものすごい勢いで突進してきた怪物が、壁にぶち当たったようにはじき返された。

続けて繰り出された第2撃に、怪物の大きな体が宙に浮いてはね飛ばされる。


それが地面に落下するが早いか、今度は背後から、ナイフのような強靱な爪を生やした手がその首筋に掴みかかり、血飛沫を散らしながら引きずり起こした。

狂ったような悲鳴を上げ、背に食い込む爪を引きはがそうと暴れる怪物の左腕を、もう一方の手が掴む。

5本の爪がざくりと肉に食い込み、怪物の肘を砕いて引きちぎった。


アマロックの、ヒーローのタイミングの登場に高揚すると同時に、その攻撃のあまりの無慈悲ぶりに、アマリリスは言葉を失った。

アマロックは顔色ひとつ変えずに、千切れた腕を投げ捨てると、怪物の背後から思い切り蹴り飛ばした。


ふたたび怪物の体は木の葉のように宙を舞い、ダケカンバの幹に激突した。

頭から地面に落ちて、ごつんと鈍い音がした。


人間ならここまでに絶命していただろう。

しかし怪物は、残った片腕を突き、あらかたの骨が砕けて動きのおかしくなった体で、墓から蘇る屍さながら起きあがろうとしていた。


アマロックはここで、片手だけ変態を解き、さっきからずっと突っ立ったままだったファーベルの肩をついと押した。

ファーベルはトトト、、とよろめいて、アマリリスの胸に収まった。

今更ながら、ヘリアンサスが駆け寄ってきて、姉とファーベルを庇って化け物との間に立ちはだかった。


魔族の金色の目がアマリリスを見、そしてその背後に向けられた。

その視線を追って振り返ったアマリリスは、慌てて、ファーベルとへリアンサスを引き倒しつつ身を伏せた。

同時にアマロックもひらりと身をひるがえし、これでクリプトメリアの構えたライフルと、怪物の間の射線が開けた。


ダケカンバの幹にどす黒い血の後をつけながら、ようやく立ち上がった怪物に、クリプトメリアは無造作に発砲した。

醜く膨れ上がった腹が破裂し、どっとあふれ出た内臓に引きずられるようにして怪物は前に倒れた。

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