第342話 身体の奥の熱

一人でいたはずなのに、すぐそばに気配を感じてはっと我に返った。

人間の姿に戻ったアマロックが、アマリリスと並んで、彼女とはあべこべに月を見上げていた。


すぐに、頬が火照ってくるのを感じる。

平常を装ったつもりで、オオカミの毛皮を体にぎゅっと引き寄せてみたが、かえって落ち着きのない仕草になったかもしれない。


「寒そうだね。オオカミに戻りゃいいのに」


「アマロックこそ。なんでそれで平気な・・・

・ん」


無遠慮に毛皮の中に潜り込んできて、言葉を奪われた。


最初の瞬間、アマロックの肌はこちらが縮みあがるほど冷たい。

けれどすぐに、触れ合う唇に感じる一点の熱からワンテンポ遅れて、身体の奥の熱が流れ込んでくる。

二人を隔てるものが消滅し、立っているのが難しいような感覚に満たされる。


寒くてみじめで心細くて、いつオオカミの姿に戻ろうかとそればかり考えていたのに、

もうこの状態から離れるなんて考えられない。

いっそ本当に溶け合ってしまえば、、今このままオオカミになろうとしたら一体どうなるんだろう。


アマリリスが用もないのにちょいちょい人間の姿に戻るのは、ひとつには、、

いや、案外これが理由の大半だったかもしれない。



あたしとアマロックは、まだ。

ワタリに出る前は一つの可能性として心の準備をしていたけれど、どうやらアマロックにその気はないらしく、

いわゆる男女の最終の関係には進んでいない。


けれどこれ以上ひとつになるなんてこと考えられない。

このうえ何かあるなんて考えるのは、それこそ二人の体から合体した一つの獣が作り出されるような、この世界でありえない話だ。


きっと、これとなにも変わらないことなんだろう。

そうして満たされれば満たされる分だけ、焦がれるような愛おしさは募るばかりだった。



アマロックの肩に頬を寄せたとき、まぶたの間に涙がにじむのがわかった。


この暗さでこの程度の涙であれば、人間は気づけない。

オオカミであればわかる。

魔族はどうなのか。

はっきりしているのは、この不安や安堵、そしてこの愛おしさも、決して伝わらないということだ。

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