第200話 雪に埋れる温もり

それから数時間後、

地上は本格的な吹雪となり、幻力マーヤーの森では、オオカミに替わり、白い魔物ヴェーチェルが暴れまわっていた。


人間であれば、その場にいるだけで身の危険を感じるような雪嵐の中、静かに佇む3頭の巨大な獣の姿があった。

満身創痍の老母のヘラジカの足元に、子ジカの亡骸はもはやわずかな残骸を留めるのみだった。


アマリリスが自ら良心の呵責を踏みにじってまで仲間に与えようとした犠牲は、結局、大半が女首領の群の胃袋に消えた。

数週間にわたる飢餓に耐えたオオカミの食欲はすさまじく、彼らが骨まで噛み砕いて平らげてしまうまでに、半時間とかからなかった。


痛ましい犠牲はしかし同時に、今日失われるはずだった、別の生命を生き長らえさせてもいた。



もしあの時、女首領の群がハプニングには目もくれず、本来の目標を攻撃し続けていたら、

きっと彼らは目的を達成していただろう。


2頭の娘たちがもう少ししっかりしていれば、家族の貴重な未来であったものを、みすみす奪われることもなかっただろう。


様々な”もし”があり得た。

けれどそれらも所詮、吹雪に埋もれようとする遺骸に、かつての生命の温もりを探るのと同じように、無意味な問いでしかない。

深く傷つきつつも生きのび、ここに立っているのは彼女であり、その事実は変えようもなかった。


まだ遺骸は雪に埋れ残っていたが、完全に見えなくなるのを待たずに、老母のシカはゆっくりと動きだし、娘たちを従えて吹雪の中に去っていった。

その足取りは重苦しくも、揺るぎない力に支えられていた。


今日の顛末てんまつは、未来に重要な課題を残した。

娘たちが再び未来の種子をもうけ、天敵から家族を護る術を身につけるまで、

彼女は今日のように、自らを犠牲に差し出すことはしないだろう。

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