第266話 責任問題です!
見ててやるから、って言われても、、、ねぇ?
ファーベルとヘリアンサスは、さっきのアマリリスとアマロックの、何だか、
どういうわけか見ているこちらが気恥ずかしいようなダンスを思い浮かべて、もじもじと顔を見合わせた。
やがて、
「行こ、ヘリアン君!」
ファーベルがバケツを引っつかんで走り出し、ヘリアンサスも慌てて後を追った。
アマロックはそれを見送ってから、木立の中へ入っていった。
トネリコの木の下で、アマリリスは目尻に滲んでいた涙を拭った。
見ていないふりで、当然浜辺の様子は見ていた。
”あたしの方に来てくれる”
ファーベルではなく。
胸が高鳴る。
喜びで胸が高鳴るというのは生まれて初めてかも知れなかった。
まだ顔が熱い。
お願い、気づかないで。
気づかないはずもないのだが、アマロックは何も言わなかった。
恥ずかしさと、幸せのはざまで、アマリリスはうつむき気味にそっぽを向いていた。
岩場で何かしている、ファーベルとヘリアンサスが目に入った。
「あの二人、ほんと仲がいいよね・・・
将来、二人が結婚してくれたら、あたし幸せだなぁ。」
「そうかね
けれどまだヤってないよ、あの二人は」
アマリリスは目を丸くして振り向いた。
「そりゃそうでしょうとも。
って、何でアマロックがそんなこと分かるのよ??」
「匂い」
「もう、嘘ばっかり。」
「分かるんだよ、魔族には
だから、
アマリリスが耳まで赤くなった。
「さぁどうかしら?」
平静を取り繕ったものの、そもそもアマロックには底意がなく、なんだか自分が滑稽に思える。
金色の瞳を見上げた。
どうする? 今なら言えるかしら。
恥ずかしさの一方、甘い蜜のように心を蕩けさせる感覚に、アマリリスは酔ったようになって囁いた。
「私の初めてのキスを奪ったのはアマロックなんだから、、
そのせいでお嫁にいけなくなっちゃったら、ちゃんと責任とってくださいねっ♥」
よく言った。
けどだめだ、やっぱり茶化したようになってしまった。
知らなかった。
この気持ちは、喜びと同時に人を臆病にするんだ。
「キスごときに責任がついて回るとは思わないね
知らんよ、おれは」
「ひっどーい、乙女の純潔を。
キスがだめなら、何だったら責任取る気よ。」
「それこそ、『口では言えないようなこと』だけど
体験したい?」
「・・・いい。遠慮しとく。」
「いい子だ
君にはまだちょっと早いかもね」
アマロックはアマリリスの髪を撫でながら、彼女を引き寄せて軽いキスをした。
やさしい口づけだった。
ファーベルとヘリアンサスが見て見ぬふりをしていることも、アマリリスは念頭になかったのだろうが、
避けるなり押しのけるなり出来た接触を、彼女は拒まなかった。
悪戯っぽい表情の目でアマロックを見上げた後、
くるりと回れ右をして海岸のほうに歩いてゆくアマリリスを見送りながら、
魔族の脳裏には別の情景が浮かんでいた。
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