第267話 異界のフルコース

それは二日前のこと。


その時アマロックの目の前に立っていたのは、やはり若い人間の娘、

おそらく、アマリリスよりは3つか4つ年上だろう。


アマリリスほどの美人ではないが、瑞々しく快活そうで、最もうるわしい年頃にある娘。

だが今、その表情は凍りつき、黒い瞳を飛びださんばかりに見開いて、立ち尽くしていた。


周囲に散乱するのは、5つの、ほんの少し前まで人間だったものたち。

彼女の家族、そして彼女の若い夫も含まれているのかもしれない。

娘の最終的な運命は明らかであり、アマロックにとってはどうでもいいことだった。


ここは、トワトワト半島東岸の名もない入り江。

一番近い人間の住処まで、というのは臨海実験所のことだが、20km程度あるだろうか。


ラッコ猟のため、小さな舟でこの海岸に上陸した彼らは、わずかな荷物を舟から下ろし終わりもしないうちに、

そして一人残ったこの娘が、何が起こったのか理解するよりも早く、魔族アマロックの襲撃によって全滅していた。


赤く染まった爪を一振りすると、振り払われた血が、娘の頬から胸元にかけて点々と赤い染みを作った。

それを呆然と眺めた後、娘は、長々と尾を引く悲鳴を上げた。


「おおうるさい。」


棒のように突っ立って、壊れたサイレンのように叫びつづける娘に顔をしかめながら、

アマロックは変態を解いた手で娘の頭を両側から挟み、自分の目を見させた。


娘の悲鳴が不意に低くなり、止まった。

やがて狂気に近い色を浮かべていた両目からも、ねじれたような格好で握りしめていた両手からも緊張が解け、

娘の精神は、強力な幻力マーヤーを持つ金色の目に吸い取られていった。


「いい子だ。」


アマリリスに接するのと同じ優しさで囁いて、アマロックは娘の体を引き寄せた。

娘はまったくの無抵抗で、アマロックの手が着衣を剥ぎ取っても、まるで気付いていないようだった。

やがて、湿っぽい喘ぎ声が無人の浜に聞こえ始めた。


魔族の饗宴のはじまりだった。




今、彼の視線の先で、能天気に笑い、ファーベルや弟と一緒に岩場の貝でも拾っている女を、同じようなやり方で貪り尽くすことは、

当然一案として、最初からアマロックの中にあった。


忘我の状態を組み敷き、やがて快楽の絶頂の瞬間にその生命を止め、ほとんど血すら流さずに頭蓋から脳を取り出す。

魔族には、その繊細な味わいまで擬似的に体験することが可能だった。


とはいえ、異界のフルコースに料理してしまったら、不可能になることもある。

魔族の金色の瞳は、女の中に、この幻力マーヤーの森で生き抜く資質を認めてもいた。

それは人間には貴重な資質であり、彼のような人型魔族にとって、自己保存の手段となりうるそのような人間は貴重だった。


アマリリスたちが戻ってきた。


「ウニがたくさん獲れたわ。

生で食べるんだって、私はじめて〜〜。

アマロックも食べてく??」


相手の想像の中で、自分が犯されたり食べられたりしているとは知りもせず、アマリリスがバケツ一杯のバフンウニを見せにきた。


「やめとくよ。おととい似たようなものを食べたからね。」

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