第273話 あの子が苦しむ

「おい、アマロック。」


波に上下する船の側舷の上を、器用に伝い歩いている魔族に、操舵席からクリプトメリアが声をかけた。


「何だ」


「アマリリスだが、ありゃいい子だなぁ。

何というか、心根が素直で、いじけたところがないのがいい。

ちやほやされるのが当たりまえと思っている辺りが時折鼻につくが、まああれだけ美人だしな。」


「そうだな

最近また胸がでかくなったんじゃないか?」


「おまえそれ、本人には、、、

まぁいいか。


ところがな、ファーベルの奴は、、その、何だ。

若干、あの子を良く思っていないところがある。」


「そうだな

ありゃ何でなんだ」


「お前を取られて、嫉妬してるんだよ。」


「わからんねぇ、人間は」


「そうだな。

まあ、人間には良くある、ありふれたことなんだが。

心配なのは、ファーベルが、お前を取られてムカつくとは、口が裂けても言わないところだ。

それに女同士の確執っていうのは、意外に根が深くなりがちだ。」


「そういうものかね」


「そういうものだ。

だからお前、あまり、ファーベルの前では、大っぴらにアマリリスといちゃつかんでくれんか。

あの子が苦しむ。」


「なるほど」


舳先に立った所で、アマロックが振り向いて言った。


「覚えておくよ

忠告をありがとう」

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