第533話 目醒めて#1
翌日、ワーニャの姿は
ここのところの定宿になっていた、大岩の根元のくぼみに、アーニャだけが変わらず身を潜め、
見落としを期待して何度目を凝らしても、ひょっこり現れるのを期待していくら待っても、ワーニャの姿は戻らなかった。
アマリリスは祈るような気持ちで、必死に消息を追った――頼みの綱のアマロックをせっついて探してもらった。
しかし、手掛かりはゼロ。
何の痕跡もなく、それこそ
実際のところは、、
なんてことは異界では珍しくもないことだった。
行方不明、が意味するところは、他の可能性を考えるまでもなく明らか。
ワーニャは、おそらく死んだのだ。
今、アーニャの隣に居ないという時点で結論は出ているも同然で、
その原因を知ろうとすることも無意味なうえ、痕跡ごと消えてしまったのなら徒労でしかないのだが、
アマリリスはまるで、ワーニャが消えた理由を探ることが、その帰還を助けることにつながると信じてでもいるかのように、捜索に執着した。
一番濃厚な線は、オシヨロフのオオカミたちに見つかって殺された、という可能性。
憎めないお調子者のワーニャが、惨たらしく咬み殺されたのだと考えると胸が痛むが、
そういうワーニャだけに、隠れ処を出て一人でウロウロしているところを、、という展開は容易に想像できる。
そう思って、オオカミの姿で集まった時にじっくりと仲間を観察してきた。
アフロジオン、スピカ、サンスポット、、、、、
みんな、あるいは誰かが、明らかにワーニャを殺してきたなという証拠みたいなもの、たとえば返り血とかは見当たらなかった。
けど、証拠がなければ疑惑が晴れるというもんじゃない。
オオカミにとって同胞殺しは罪でもなんでもない、どころか、彼らにそもそも罪の意識なんてないんだった。
そんな彼らが、彼らにとってはとんちきな余所者でしかないワーニャに手を下していたとして、あたしはそれに気づけるだろうか??
・・・たぶん、気づく。
そしてこのカンジだと、ないな、と思う。
獲物にありつけたとか、獲物でなくてもよその群れのオオカミと喧嘩してきたとか、
遊び半分にカラスを殺したとか、そういう時って、もっと気分のアガってる感じが出ているものだ。
今のみんなは、昨日、ワーニャが確実に生きていた時間帯と同じ、凪のムードなのだ。
この間に何かあったとは考えにくい。
でも、アマロックは――
アマリリスは恐る恐る、彼女がこの世で一番に思いを寄せている、
同時に(そしてそれ故に)、最も遠い心の隔たりを感じる存在でもある相手を見上げた。
アマロックが、、他のオオカミはともかく、
あたしが、ワーニャとアーニャのことを頼んだアマロックが、約束を破って(魔族なんだし、だとしても何を
何くわぬ顔をしているとしたら?
それを見抜くのは・・・・・ムリだ。
でもほら、例の交換条件が。
・・・いや、それも、アマロックとしてはただの気まぐれで言ったことで、本当はどうでもいいことなのかも知れない。
彼にとっての、このあたしそのものと同じように。。。
ワーニャ捜索の
アマリリスの縋るような視線に気づいて、じっと見返してきた。
愛するものと二人きり、それこそ世界には二人しかいないと言ってもいいような状況で視線を交わし合いながら、アマリリスの心は孤独だった。
夏、高地で置いてきぼりにされて、生死もわからないアマロックを必死に探していた時よりももっと寂しく不安な気分だった。
こうして見つめ合っていても、理解し合えない、決して通い合うことのない心が、これほどにも苦しいものだと、
アマロックと二人の日々が続くにつれ、アマリリスはより強く思い知らされるようになっていた。
そのことで、アマロックに対する恋心が、少しも揺らいだわけではなかった。
どれほど苦しくても、まるでその苦しみから恋の喜びが湧き出してくるかのように、アマリリスはアマロックが愛おしくてならなかった。
彼女の心を占めていた重苦しさは、決して報われることのないとわかっているこの恋が、いつか幻滅とともに色褪せてしまうのではないか、という妙な強迫観念だった。
そうなってしまったら、アマロックと一緒にいるために、人間世界を棄て、荒野に一人ぼっちの自分に何が残されるというのだろう?
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