第248話 この世界の未来へ

アマリリスがおぼろげに記憶しているのは、

動けない自分を、竜の母親が抱いて、あるいは、流氷の上に乗せられて、それを人魚の少女が押して運んでくれたこと。

――どちらだったか判然としない。それくらい朦朧としていたということだ。


それにつき従う人魚の少女は一人ではなく、少なくとも4,5人。

親子でも、姉妹というわけでもなく、全く同じ顔の少女自身が複数人いるのだ。

そして、最初から気づいていたことではあったが、少女と、今や竜の姿となった母親も、同じ顔だった。


二人は親子ではない。

同一の、2つの存在なのだ。


けれどもアマリリスは、本当だったかも分からない、竜の母親の胸に抱かれて運ばれたというイメージの方を好んだ。

それによって初めて彼女は、母というものを実感することが出来たからである。


気がつくと、人魚の入り江の外、兜岩の麓の海岸に横たえられていた。

流氷が動き始めていた。

氷の回廊も崩れて入り江を離れ、沖に向かって流れてゆく。

その後を追うように、人魚の、そしてレヴィアタンの幼生たちもまた、外海へと流れ出ていった。


赤や青や、様々な色に光るその姿が、暗い海にだんだんと消えてゆく様子は、

川に灯明を流して祖霊を送る、ウィスタリアの夏の終わりの風習を思い出させた。

けれど今見送っているのは失われた魂ではなく、この世界の未来なのだ。


来年の冬、あるいは5年、10年先?

成長した彼らが、この入り江に戻ってくるのかもしれない。

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