第10話 異形の獣


ファーベルの淹れてくれたチャイをすすり、3人の会話に耳を傾けるそぶりをしながら、アマリリスは、目の前の魔族という生物をじっと観察していた。


そうと知って眺めれば、明らかに人間ではない。


夜明け前の空のような、暗い紫紺色の髪、上端の尖った耳朶、金色の瞳。

でもそれだけなら、世界のどこかには、そういう姿をした人種がいるんだ、と聞けばそう思えそうだ。

何かそれ以上に異質な、何とも表現しようのない違和感のようなものを感じるのは、

魔族だと、今はこうして人の姿をしていても、自分の知らないところではオオカミの姿で暗い森を徘徊している、異形の獣だと聞かされたせいだろうか。


――オオカミ。

アマリリスは故郷で見たその獣を思い出した。


ウィスタリアでは、魔族もオオカミも、歴史の記録が残るよりもはるか昔に滅んでしまったが、

アザレア市のボーイフレンドとデートした動物園で、ラフレシア産のオオカミを見たことがある。

一見、少し毛色の変わったイヌのようだった。

けれどどこか違う。


イヌであれば、個性はいろいろあって、親近感ばかりとはいかないが、

みな似通ったところが、数千年連れ添ったあるじに通じる心の絆のようなものがある。

しかしそのオオカミの、ただただ暗く冷たい眼光の奥に、そういうものは期待できない気がした。


その時は、何年も檻に囚われて傷ついた心のせい、檻によって隔てられた断絶のせいだと思っていたが。



故郷のことを思い出したせいか、少し感傷的な気分になって席を立ち、外へ海を見に行った。

しばらくして戻ると、クリプトメリアは実験室へ、ファーベルとヘリアンサスは台所のほうに引っ込んで、夕食の準備をしながら、楽しそうに談笑しているのが聞こえる。


アマロックの姿はなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る