第179話 ここで義理立てしていても

手に持って振って見せたり、地面に置いてしばらく様子を見たりしたが、サンスポットは見向きもしなかった。


「どうして。。。せめて、あんただけでも・・・」


声が詰まって、涙をこらえるのがやっとだった。


サンスポットが、オオカミとしての矜持きょうじで、

あるいは他の仲間に義理立てして、人間からの施しを拒んでいる、

なんてことがあるわけがない。

野性の獣の警戒心なのか、食べ物と思ってないのか、とにかく食べたくないから食べないのだ。


途方に暮れてピローグを拾い上げ、表面についた雪を払った。

どうしよう、これ。


アマリリスはアマリリスで、朝から食べておらず、サンスポットと比較にはならないにせよ腹ぺこだった。

お腹が恥ずかしいほど大きな音を立ててぐーっと鳴った。


ここでアマリリスがサンスポットに義理立てして、絶食に付き合っていても、彼の窮乏に対しては何の解決にもならない。


そもそも、人間の食べ物を与えてオオカミを救おうと思ったら、

後ろめたくないために、あの横暴なアフロジオンや、陰湿な感じの3兄弟にもあげなくちゃ、になる気がする。(アマロックはいいとして)

そして同じように飢えているに違いない、両隣や、山の群にも?


それどころか、飢えてるのはオオカミだけじゃない。

雪が積もって餌が探せず、木の皮まで食べてしのいでいるアカシカたちにも、その他の動物たちにも、

この窮乏が続く間、ずっと?


いやいや、そんな巨大な動物園みたいなのを作って、何がしたいのかさっぱり分からない。

空腹のせいで変な方向に考えが行ってしまった。


アマロックを罵った時の自分がひどく恥ずかしく思い出されて、雪野原で一人赤面した。

一層冷たくなってしまった、それでも美味しいピローグを、アマリリスは無意味な罪悪感と一緒に頬張り、自分の餓えを満たした。

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