第178話 神に忘れられた土地

懸命の祈りは通じなかった。


そういえば、トワトワトはまたの名を、”神に忘れられた土地”と呼ばれているのだった。


どこかでアカシカの群を見つけて、腹一杯食べられていることを期待して別れてから四日。

この間、オシヨロフの海には、この冬初めての流氷が姿を現し、瞬く間に海岸を埋め尽くしてしまった。

昨日までの黒々とした海が、一面に氷の平原と化した光景は、神秘的な吉兆とも、逆にぞっとするような不吉な前触れとも受け取れそうだった。


再会したサンスポットは、相変わらず背中とお腹がくっつきそうな様子で、しかもどうしたことか、あちこちに切り傷をこしらえていた。

どこかで藪にでも引っかけたのだろうか。


安易な期待が裏切られ、今までとは質の違う不安に囚われてサンスポットを眺めた。

このままでは、マズイのかもしれない。


野生に生きる獣は、人間からすれば驚くほど長い間、絶食に耐えられるという。

だから大丈夫、そのうち何とかなるだろう、と思っていたのだけれど、、、

そう思っているうちに、サンスポットは少くとも3週間、ひょっとしたらもっと長い間、ろくに食べていないのだ。

いくらオオカミが我慢強いからといって、そんな状態でずっと生きていられるとは思えない。


このままでは、いずれ、、、



昼過ぎまで歩き回って、結局何も見つからなかった。

サンスポットのことが気になって、朝食を取らずに出てきてしまったアマリリスは、ひどく空腹だった。

自分自身の空腹と、サンスポットの飢餓への心配がない混ぜになった欲求から、アマリリスはポーチの中の包みに手を伸ばした。


これを考えるのも、たぶん初めてじゃない。

野に生きる獣に対してエサを与えることに、漠然とした抵抗があった気がするけれど、

でも今はそんなことを言ってる場合じゃない。


「ほら、お食べ。」


ファーベルお手製、挽き肉がたっぷり入った特大のピローグを差し出した。

サンスポットはじっとアマリリスを見つめ、ピローグの臭いを嗅ぎに来はしたが、食べようとしない。

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