第600話 急襲する闇#2

ぬかるみの泥と、自らの血にまみれ、

地面に倒れたまま、浅い息を続けるアマリリスに近寄ると、

黒い魔族は彼女の髪を掴んで引きずり起こした。


「感謝するがいい

おれは女の胎を壊すようなヘマはしない

じきに、月のものがはじまるさ

それまで、せいぜいご自愛あれ、バーリシュナ」


猫撫で声でそう言って、地面に投げ出した。

その足音が去り、辺りが静かになっても、アマリリスは目を開けることすら出来なかった。


「こんな。。。」


自分の声とも思えない、かすしわがれた声でうめいた。


こんなことが、あっていいはずがない。

これほどにも残酷なことが、この世に・・・・


夢であって。早く醒めて。

誰か違うと言って。


アマリリスは苦痛をこらえて体をひっくり返し、渾身の力を肘に込めた。

しかし、どうしても立ち上がることが出来ない。

両肩ががくがくと震え、握り締めた手は、爪が掌を傷つけて血がにじんだ。



分かっている。


これが、現実だ。

見まいとも、目を背けたとしても、冷然とそこにある現実だ。


アマリリスは血走った目を見開いた。

力が甦り、上体が少しだけ持ち上がった。


アマロックに会わなければ。

きっと、死ぬよりも辛いだろう。

でも、会わなきゃ。

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