第17話 コンツェルティーナよ歌え

「マルジャーナは煮えたぎった油を38個のかめに次々に注ぎ、盗賊はみな死んでしまいました。

・・・マルジャーナは踊りながらかしらに近付き、持っていた剣でかしらを突きころしました。

・・・めでたしめでたし、

えー、何これ、こんなヒドイお話だったっけ」


ファーベルは口を尖らせて絵本の表紙を見返した。


「そんなにヒドイお話でもないさ、面白いお姫さまじゃないか。

なぁ、バーリシュナお姫さま


急に話を振られて、アマリリスはどう答えていいか分からず、曖昧に愛想笑いを見せた。

反面、内心では何か失礼なことを言われたような気がして、むかっとしていた。


「マルジャーナはお姫さまじゃないわよ、使つかいだよ?」


「おやそうかい。」


アマロックはページをめくり、ヒロインが剣の舞を披露する シーンを開いた。


「ファーベルもこんな踊りしてみなよ。」


「えー、、やだ。はずかしいよ。」


「いいから、一緒に踊ってやるから。」


アマロックは、小柄なファーベルの脇を支えてひょいと持ち上げ、ソファーの横の広いスペースに下ろした。


『川面にかすみたなびき咲き誇る林檎と梨の花

吹き渡る風に黒馬のたてがみ流れ金鷲きんしゅうは大空を舞う・・・』


ラフレシア人なら誰でも知っている、リズミカルな民謡の歌。

外国人のアマリリスも何度か、コンツェルティーナの伴奏で耳にしたことのあるメロディーを、数小節、手拍子つきで歌ってから、アマロックはファーベルの手をとって踊りはじめた。

左右に振り動かされ、くるくる回され、ファーベルはきゃあきゃあ笑っている。

ファーベルのことは、目が回りそうなほど振り回しながら、アマロック自身は割とゆったりしたステップのまま、けれど歌も踊りも、なかなか上手で、

アマリリスはつられて途中から手拍子を合わせた。


『・・・河岸はるかな草原に声高く彼女は歌う

愛する人よどうか戻れ かなたより戻れこの胸に』


楽しい一幕の終り間際、くるくると旋回するアマロックと一瞬、目が合った。

アマリリスははっとなって手が止まった。

その時だけ、金色の燐光が、閃いて消えたように感じた。


「あー、楽しかった。

目が回っちゃったよ。」


少し千鳥足になって戻ってきて、ファーベルはソファーにすとんと腰を下ろした。

次は自分を誘うのではないかと思って、アマリリスは緊張でどきどきした。

しかしアマロックはそれっきりアマリリスには見向きもせず、アマリリスはホッとすると同時に、また何かバカにされたような、心ないあしらわれかたをした気がして腹を立てた。

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