第16話 ファーベル

アマリリスもヘリアンサスも、すぐにファーベルが大好きになった。


おそらく、ラフレシア極東と国境を接する、ムータン国あたりとの混血の子なのだろう。

切れ長だがくりくりした瞳も、濡れたように艶やかなショートボブの髪も、星々の狭間を埋める夜空の深みのような、魅惑の漆黒で、

アマリリスカラカシス人クリプトメリアラフレシア人とは明らかに違う、線の柔かな東洋人の顔立ちをしている。


小柄で華奢な体格に、若干舌足らずで子供っぽい声から、もっとずっと幼いと思っていたが、

実はヘリアンサスの一つ年下、アマリリスとも三つしか違わなかった。


愛くるしくひょうきんな、それでいてとてもしっかり者で、

お世辞にも几帳面とは言えない父親の世話を焼き、すっかり小さな女主人の風格があった。


反面、時々フラリと現れるアマロックには甘えん坊というか、大型犬を溺愛する少女のような構図だった。


今日も、浜に来ていたアマロックをつかまえ、実験所の食堂につれてきた。

そして、魔族の手にスプーンを握らせてお手製のシチューを食べさせ、その後は居間のソファーでアマロックの膝の上に座り、

絵本を(現在のファーベルにはこども向け過ぎる、童話の類いだ。)読んで聞かせるといった有り様で、この時ばかりはアマリリス達はそっちのけだった。


アマロックは室内飼いのマスチフよろしく、おとなしいものだった。


アマリリスは、初対面でいきなりキスされたのがそれなりにショックで、警戒心を緩めなかったが、

ファーベルと一緒にいるアマロックの眼は、そう思って見るせいかどこか優しく思え、この風変わりな疑似兄妹を見るのは楽しかった。

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