第202話 河岸の死線#2

固いものを突き破る感触があって、ほぼ同時に、彼女を支えていた氷盤が消滅した。

ふわりと体が浮き、水圧に締め付けられる感じがして、

ワンテンポ遅れて、ブーツの上端、アノラックの裾と襟、袖、衣服のあらゆる継ぎ目から、水が流れ込んできた。

辛うじて凍結せずにいる、恐ろしい冬の川の水が。


いたい。いたっ、いたたた、、、


全身をナイフで切りつけられるような感覚に、アマリリスはパニックを起こした。

息ができない。

喉に水が流れ込んでくる。


暗い死の影が頭をよぎったその時、足元の水の中から、力強く水面に躍り上がったものがあった。

さらにアマリリスの肩と頭を踏み台にして、氷の上によじ登る。

滝のように水の滴る金色のたてがみが、かろうじて見てとれた。


ああよかった、あなたは助かるのね、アフロジオン。

気に入らないヤツとか思ってたけど、最期に仲良くできて嬉しかった。。。


アフロジオンに別れの言葉を告げ、ちょうど頭のてっぺんまで水に沈んだところで、爪先が川底の岩に触れた。

何と、足が立つ。

となれば、、助かるかもしれない。いや、絶対助かる、こんなところで死んでたまるもんか。


ショック状態でうまく動かない手足にげきをとばし、両足を踏ん張った。

顔が水面に出る。

水はアマリリスの胸の高さ、流れも緩い。

水中でしばらくもがいて、踏み台になりそうな岩を見つけ、氷の上によじ登った。


川原の雪の上で、アフロジオンがしきりにげーげー嘔吐している。

水を飲んだのだろう。

あれなら大丈夫そうだ。


一方で、アフロジオンと一緒に川に落ちた、敵方のオオカミの姿は見えない。

アマリリスはすがるような思いで周囲に目を走らせた。

彼女が開けた大穴をさらさら流れる水にも、雪を載せた厚い氷の上にも、ひっきりなしに舞い落ちる雪のほかは、動くものの姿は皆無だった。


「そんな。。。」


アフロジオンが、犬がよくやるように全身を震わせて水をはね飛ばし、何事もなかったように、とことこと歩き去っていった。

入れ替わりに、人間の姿に戻ったアマロックが、斜面を下ってきた。


吹雪の中、アマリリスは茫然と立ち尽くしていた。

毛皮服は今や水袋のようになって、全身から水が滴り落ちる。

こらえようもない震えが襲ってくる。


「バッカだねぇ。。。」


心底あきれたと言う様子で、アマロックが言った。

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