第528話 わたしが怖れた出会い#1

「"・・・猟師たちのことは、わたしは何も心配していなかった。

わたしが怖れていたのは、彼らが連れてきたその少女のことだった。。"」


吹雪ヴェーチェルの日に現れる姉弟オオカミとの関わり、そして吹雪の合間の狩。

さらにその合間に、臨海実験所でのティータイムのお供となっているアマリリスの読書、

『青いイルカの島』の物語は、拾い読みのような形で、前後関係なく読み進められていた。


もともと、アマリリスはこの物語の大まかなストーリーは知っている。

思わぬアクシデントで(というか、弟のやらかしに姉が付き添う形で)姉弟2人きりで無人島に取り残され、

その弟も間もなく野犬に殺されてしまう。

以後、救出されるまでの数十年間、実に物語の4分の3を占めるページ数にわたって、少女の孤独が続く。。。


そんなんで物語として成立するのかと心配になるが、

どんな状況でも、人が心を動かされたり、記憶に留めたいと思うことは尽きないらしい。


そして驚いたことに、その孤独の歳月の間ずっと、彼女は他者と接触を持たなかったわけではなかった。

ラッコ猟のために、海を渡って”青いイルカの島”にやってきた、狩人の集団がいたのだ。


ところが少女は、彼らに救出を求めるどころか、自分の存在を感づかれまいと、細心の注意を払って外来者たちから身を隠す。


「"猟師たちが海に出ている間、わたしより少し年上に見える外来者の少女は時々、島の山手の方にやってきて、果物や根菜を集めている。

そのうち、泉のところまで来たらわたしの足跡に気づき、あとをつけて住居ここまでやってくるかも知れない。

わたしは用心のために住居を出て、すくなくとも月が満ちるまでの間は洞窟で暮らすことにした。。"」


その猟師たちが、主人公の少女にとっては仇敵の部族であるということ、

”青いイルカの島”から、彼女の部族が去る発端となった余所者との紛争の相手方、主犯ではないにせよ協力者のひとつだったから、

というのが文中の説明であり、もっともではあるのだが、

少女の一種動物じみた、異様なまでの警戒心からは、もはや彼女の心が、誰であれ他者との触れ合い自体を拒絶しているようにアマリリスには感じられた。


「"島内で猟師の姿を見ることも、その少女がわたしの洞窟に近づくこともなく、わたしは安心を感じるようになった。

じきに冬の嵐がここに吹く、その前に余所者どもは去っていくだろう。。"」


そして、2人の少女の遭遇が起こる。

油断と言うには酷だが、主人公がうっかり洞窟から出てきたところで、外来者の少女とはち合わせになるのだ。


「"穴ごもりの間にこしらえた、ウミウの羽根のスカートを腰に巻きつけ、久々の日差しの下でわたしはくるりと一回転した。

物音に、わたしは素早く振り向き、、少女が、茂みのところからわたしを見下ろしているのに気づいた。

とっさに、わたしは、洞窟の入り口に立て掛けてあった槍を掴み、少女に投げつけようと構えた。。。。"」


雪片が目の前を舞っていって、アマリリスは本から目をあげた。

竈で焚いていた薪はあらかた燃え尽き、ささやかな暖房にしても心もとなくなってきていた。

薪小屋からもう一本持ってきてもいいのだが、、今から外に出るのもひどく億劫だった。


アマリリスは本とランプだけ持って、居間のソファーの上に拡げたままにしてある寝袋へと移動した。

ローテーブルにランプを置いて、寝袋へ潜り込むと、ここにも居心地の良い読書スペースが出来上がった。

さてと続きを。。。

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