第529話 わたしが怖れた出会い#2
「"・・・なぜ
彼女はわたしの仇、わたしの部族を殺したやつらの一員だというのに。"」
仇敵の殺害をためらう、そしてその理由を”うまく説明できない”というくだりは、
主人公の少女が、弟の仇であった野犬を一度は追い詰めながら、復讐を思いとどまったシーンを連想させた。
そして、さらに彼女を困惑させたであろうことが起きる。
当の、命を救けられた
外来者の少女の呼びかけに応じ、彼女に近づいて親しむ様子を見せた。
野犬となる前の彼にとって、少女はあるじだった。
外来の部族が島に残していった犬だったのだ。
荒々しい声で、外来の少女と犬を怒鳴りつける主人公の、
張り裂けるような胸の痛みが、アマリリスにはありありと感じられるようだった。
「"・・・余所者の少女は懸命に、身振り手振りで、所有権を譲ると、、
彼が今はわたしの犬だと認めると、伝えてきた。
そうしないとわたしに殺されると思ったのだろうか。
いや、彼女は、わたしと親しもうと望んでいるように思えた。。。"」
外来の少女の努力にもかかわらず、孤島の少女はなかなか打ち解けなかった。
孤島の少女を慮って、外来の少女は自分の部族に彼女の存在を教えず、彼女の服装を褒め、贈り物で彼女の気を惹こうとした。
日々洞窟にやってきては、お互いに言葉の通じない相手に根気強く話しかけた。
やがて孤島の少女は外来の少女に心を開くが、自分の本名は教えなかった。
彼女の部族では、本名には特別な呪力があると考えられていたので、部族の中でも、本当に信頼のおける相手にしか教えないのが通例なのだ。
まして信頼のおけない余所者に教える理由はまったくなかった。
慣習に反して、孤島の少女が外来の少女に自分の本名を伝えたのは、あとになってみれば、2人の別れの日だった。
「"わたしが教えた仮名、”黒髪の娘”がわたしの名前だと思っている彼女は、
ようやく理解すると、心に刻み込もうとするように、何度も繰り返して口にした。。。"」
翌日、強い北風が吹きはじめ、猟師の上陸した浜では出航の準備が慌ただしく行われていた。
孤島の少女は、二人分の夕食を用意し、暗くなるまで外来の少女を待ったが、彼女は訪れなかった。
別れの言葉が交わされることはなく、翌朝、余所者の船は”青いイルカの島”を去っていった。
「・・・」
外来の少女と、彼女自身の部族との関係は文中では全く触れられていないが、
この調子だと良好だとは思えない――、たぶん碌なもんじゃないだろう。
アマリリスはため息をついて、読みかけのところから、あまり記憶に残っていない冒頭部分までページを戻した。
「"わたしの弟はほんの小さな、わたしが12の時に半分ぐらいの年の男の子だった。
その年にしてもちっぽけな彼は、しかしバッタみたいにすばしこくて、何かに夢中になるとバッタみたいにおばかさんだった。
まさにこの理由のために、わたしは根菜集めの仕事を彼に手伝わせ、そして彼がどこかにすっ飛んでいってしまわないように気を配った。。。"」
こうしてみると、能天気なこの出だしに、主人公のその後の運命、
彼女が幾度となく経験する無言の別離が暗示されているように思えるのは――、
まぁ普通に考えて、その後を読んで物語の内容を知っているからよね。
本を読み返したり、先読みするみたいに時間を行き来できたら、
あの時や、あの時、「今の」あたしはどう感じるんだろう。
未来がどうなるか知ったら、それをどう思うんだろう。
空想は自然と、今一番の関心事、
こうして吹きつのる
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