第119話 もし生まれ変わったら
グナチアの谷を抜けると、霧はすっかり晴れていた。
黒々とした雲の層が、巨大な
晴れ間から、既に大きく傾いた太陽の光が差していた。
まるで、山を柱、雲を天井に作った壮大な建物の底にいるようだった。
その広い空間を、雲の天井に頭をぶつけそうにしながら、一体のキュムロニバスが通り過ぎていった。
キュムロニバスの体から時おり、白っぽい粒がはがれ、光芒を横切って地上に降ってくる。
地上に到達してみれば、それは牝牛ほどもある、ぱんぱんに膨れたかたまりで、草地やハイマツの茂みの上に落ちて大きく弾み、毬のように転がっていった。
なるほど、キュムロニバスが連れてくる、というのはこういう意味だったか。
まさに獣につくダニと同じだ。
キュムロニバスの巨体に取りつき、但し群体には加わらず、体液を吸って栄養を蓄えながら、目的地まで運んでもらうのだ。
そしてこのあたりがグナチアの繁殖地で、ただ乗り&車内泥棒の乗客が、三々五々降車しているというわけだ。
運悪く岩の上に落ちたグナチアが、水風船のように破裂し、赤黒い液体の染みとなって消えた。
うまく着地したものの、転がっているうちにキュムロニバスに踏みつけられ、潰されるものもいた。
無傷で残ったメスを、オスが大顎でくわえ上げ、どこかに運んでいく。
そういうオスが、何匹かいた。
頭上を歩き渡っていく巨大な影にも、岩に落ちたり踏んづけられて潰れたメスにも、
同じようにせっせとメスを拾い集める仲間のオスにさえ無関心で、建設機械のように、忙しく立ち働いていた。
「生まれ変わって、もしグナチアに生まれちゃったら、どうする?」
無意味な質問なのは分かっていた。
アマロックがどう答えるか、聞きたかった。
返ってきた言葉は、アマリリスが予想してたよりもう一段階、予想外だった。
「魔族とオオカミは生まれ変わらないんだろ。
君が言ったことじゃないか。」
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