第118話 対抗者(但し欠陥性)#2

ずだ袋のようになって息絶えている母親の骸の下で、あまりにも早く世に産み出された新生児たちの、生存を賭けた死闘がはじまっていた。


歩行肢を展開して這いずることが出来るものは、動き始め、思い思いにどこかの岩陰に消えていった。

一旦動き始めたものの、歩行肢がまだ固まりきっておらずに曲がったり折れてしまい、立ち往生するものも多かった。

這うことの出来ないものは、はじめからそのままの場所で、ただ甲高い鳴き声をあげていた。


そして、そのまま次第に静かになって行くようだった。


「いったい、、、」


アマリリスがうめいた。


「母の愛緊縮きんしゅく政策だ。

最近多いね、寄生種が増えすぎたんだろう。」


「・・・は? 何て?」


「欠陥種なんだよ。

多分、体皮の伸びが悪くて、あまり栄養素材を溜め込めないし、子供が育ってくると、自然に裂けてしまう。」


「欠陥、、?」


「うん。」


「分かんない。

何で寄生種が増えると、欠陥種が増えるの?

寄生されない、強い種じゃなくって?

こんなにちっちゃい子を産むことになっちゃうし。

半分ぐらい死んじゃったじゃない。」


アマリリスは懸命に訴え、足元に積み重なった胎児の骸を指し示した。


「そういう強い種ってのが、いるかどうかは知らないけどね。

半分死んでも、全部喰い尽くされるよりはまし、ってことだろ。」


やはり、不思議がる理由が分からない、という様子だった。

そう、アマロックには分からないのだ。


クリプトメリア博士ならこう言うだろう。

グナチアの生体旋律に生じた欠陥が偶然にも、寄生種に喰い尽くされる前に、胎児を逃がす結果を産み、そのような欠陥のある旋律の自己保存比率を高めたのだ、と。

生体旋律という言葉は使わなくても、アマロックが言っているのはそういうことだ。


見た目に明らかな欠陥が生存の利益であること、子どもにかける愛情の供給を縮減し、その半分を殺す道を選択させる自然の摂理に、人間が感じる衝撃は、彼には理解できないのだ。


「さて。

気がすんだらそろそろメシにするかい。

あと、気をつけないと、幼生は血を吸うよ。」


現に一匹の幼生が、アマリリスの爪先に這い寄って来ていた。

恵まれない生を享け、それでも必死に生きようとしている幼い命に、アマリリスは全身の血液をやってもいいような気分だったが、

アマロックの足が無造作に、その生物を踏み潰した。

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