第101話 跳躍

獲物に忍び寄るネコそのものの動きで、アマロックはハイマツとシャクナゲが混じる、灌木の茂みの中へ這っていった。


辺りにはもうほとんど光はなく、山肌も谷間の草地も、黒々とした闇に沈んでいた。

その中に、雪渓が白く亡霊のように浮き立ち、前方に広がる沼は桔梗色の空を映して、燐火のように妖しく光っていた。



高原の風が渡り、藤色の湖面に波紋が広がる。

そこに水鳥の影が数羽、浮かび上がっていた。


シギの仲間のようだ。

トワトワトか、あるいはもっと北の営巣地で夏を過ごし、冬の住まいへと向かうところなのだろう。


鳥たちの背後の、人ひとり隠れる丈はとてもなさそうなスゲの茂みが割れ、黒い影が踊りかかった。

同時に、シギの群れはいっせいに、水面を蹴立てて舞い上がった。


5列の刃が一閃した。

一羽の尾羽を打ち、切り刻まれた羽毛がパッと散る。

襲撃を受けたシギはよろめいたものの、そのまま強引に羽ばたき、体勢を立て直そうとした。


あ・・・逃げる。


そう思ったとき、アマロックは空中でくるりと体を回転させ、鞭のような左足の一撃が、シギの片翼を打った。

あわれな鳥はきりもみしながら落下し、水面に落ちて派手な音を立てた。



獲物を片手に沼をじゃぶじゃぶ歩いて、アマリリスのところに戻ってくると、

アマロックは無造作に、素手でシギの体を引きちぎり、片足と、それにくっついた胴体の一部をアマリリスに差し出してよこした。


「はい。晩メシ。」


受け取りをためらうアマリリスを促しながら、裂けた断面からはみ出した内臓か何かをすすっている。


「あたし、火を通したのがいいなぁ。。」


「そりゃ、お好みでどうぞ。

でも火っていうと、マッチとか要るんだっけ? おれは持っていないよ。」


「それは大丈夫、持ってるし。

あ〜、お願いしてもいいかな、タキギ集めてくんない?

ハイマツの枯れ枝とかそこらにいっぱいあると思うんだけど、暗くてよく見えなくて。」


「ふむ、承った。」


「ありがとっ!

よかったらアマロックの分も焼こうか?

その方がおいしいでしょ。」

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