第4話 トネリコの巨樹

「本当ですか?魔族が、変身できるって」


クリプトメリアと並んで来た道を戻りながら、アマリリスは尋ねた。


「多重表出型のことだね。

事実だよ、すべての魔族が備えている能力というわけではないが。

アマロックで言えば、人間以外に、オオカミの表出型を持っているはずだ。」


「狼男ですか。」


狼男ルゥ・ガルというのは、実在する生物としては別のものを指す言葉だ。

オオカミの表出型を持つ魔族の呼び方は、人狼ヴルダラクだな。」


「本当にいるんだ。。。」


浜に出たところで、アマリリスは足を止めて振り返った。

死に絶えた空っぽの世界だと思っていた場所は、様々な伝説に彩られた魔の種族が棲む場所、『異界』だった。

鬱蒼うっそうと広がる木々の塊を、アマリリスはおそれと魅惑みわくの半ばする思いで振り返った。


さっきの巨樹のこずえが、ひときわ高く大きく広がっていた。


「こんな立派な、大きな木があったんですね。

この間ここを通ったときは気付かなかったなぁ。」


血眼になって父の手掛かりを探していた時。

あの時は海のほうばかりを見ていた。


「イルメンスルトネリコという木だ。

トワトワトで、こんなに大きくなるのは珍しい。

ここは冬の嵐が物凄くてね、普通、大木に育つ前に倒れたり折れてしまうんだが。

ここは、ほれ、周りをぐるっと高台に囲まれておろうが。

おかげで幾分、風が和らげられるんだ。」


「ふぅーん。。。」


クリプトメリアの手の動きを追って、アマリリスは全周を見回した。

大きな獣の背のような、荒々しい起伏が左右に連なり、 入江の海面を取り囲んでいる。

誰もいない砂浜の向こう、木々の茂る台地のふところに、たった一軒、臨海実験所の赤い屋根があり、

晴れ間の広がる空の下、湖水のように静かな海面に、その影を映していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る