第5話 異国の姫の恢復

目に見える変化もあった。


二人で臨海実験所に戻った時にはもう、アマリリスは少し元気になっていて、

その視線からは棘々とげとげしさが薄れ、その日の夕食の席では、自分からヘリアンサスやファーベルに話しかけさえした。


死人のように青白かった頬は、久しぶりに姿を現した太陽に暖められたように、ほのかな赤みが差し、それだけで見違えるほど生き生きとして見えた。

それとも、もともとこういう女の子で、薄暗い日陰から日の光の下に出てきたことで、はじめてその姿がよく見えるようになったのか。


経緯を見て知っているクリプトメリアは、少しあきれ、どこか腑に落ちない印象はあったものの、おおむね微笑ましい好感をもって、その変化を見守っていた。


戦災の被害者だからといって、ずっと暗くいじけているなんて、そのほうがおかしな話だ。

思いきり笑い、何であれ人生を楽しんだ方がいい。そういう意味では、この少女は確かに本来あるべき姿を取り戻しつつある。

遅かった今年の春のように、ようやく恢復かいふくに向かっているわけで、非常に結構なことだ。


しかしそのきっかけがアマロックだとしたら、何とも頭の痛い話だった。

アマロックは、どこの都会の裏路地にもいるような不良少年とは違うのだ。

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