第425話 羽化階層#2

兵卒の羽化室から次の室に向かう通路は、途中で2つに分岐していた。

アマリリスが適当に左を選んで進もうとすると、刺青の女ははたと立ち止まり、彼女にしては珍しく尻込みするような素振りを見せた。


アマリリスと、彼女の言いつけで鼻長駒の母親の手綱を引いているマフタルは顔を見合わせた。


「どしたのオバサン?

こっち、行きたくない??」


アマリリスからの問いかけに、刺青の女は、彼女にというよりは自分自身に対して首を横に振るような素振りを見せてから、

さっきまでの気のない様子とは違った足取りで、再び歩き出した。


危険だとか、行ったらまずい事情があるのなら、この女ならもっとはっきりと制止するだろうという気がして、

彼女らしからぬ躊躇には奇妙に強い違和感が残ったが、その理由は程なくしてわかった。



左の通路の先にあったのも、やはりベラキュリアの羽化室の一つではあった。

しかしここに運搬履帯は敷設されていない。

履帯に乗せるにはあまりにも大きな、まるで象を捕食するという伝説の怪鳥の卵のような塊がいくつも、壁に沿って並んでいた。


兵卒のものとはかけ離れた形ではあっても、それが繭だということは考えるまでもなくわかった。

そして、なぜこれほど巨大なのか、中で何を育てているのかということも。


アマリリスの直感が見抜いた以上にそれは仰々しい、金属製の外殻を合成内膜で裏打ちした強化促成装置であり、

大量の栄養素材を送り込むためのチューブが何本も天井から降りてきて接続され、途中に設けられたポンプが、ゆっくりと拍動するように収縮していた。

促成装置の間を、ベラキュリアの兵卒――のようだが背が高く、やけに腕が長く、装甲が薄く思える個体が立ち回り、外殻に開けられたのぞき穴から内部を確認したりしている。


自分も見に行きたい誘惑に駆られて動きはじめたアマリリスだったが、別の誰かに足を掴まれでもしたかのように、ぎこちなく踏みとどまった。

改めて、硬質な外殻、そこに接続されたチューブや、得体のしれない装置の渾然とした塊を眺めた。

ヴァルキュリアの体が、本来吸収できる限界を超えて強制的に栄養素材を送り続けるポンプ。

その結果、あんな醜悪な、生まれながらに意識も錯乱した怪物にさせられてしまうなんて。。。

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