第466話 あたしが言ってあげる
トヌペカが、緑の箱庭に戻りたくないと言うので、マフタルとトヌペカは骸棄階層の片隅で、薄暗がりの中話し込んでいた。
居心地が良いとは到底言えない場所ではあったが、そんなことは今の二人にはどうでもいいことだった。
{でもどうして戻りたくないの??
あっちには、君の群族の仲間もいるのに。}
{だからに決まってるし。
あんな陰気臭い連中と一緒に居たら、コッチまで
本物のテイネは
残りの4名は、テイネの母を筆頭に、自分は何もせず人には難癖ばかりつけてくる、情けない大人たちばかり。
群族を襲った災厄が、結局ああいう連中ばかり生き延びさせるのだとしたら何ともやりきれない。
自分もいずれその一員に数えられるようになると考えるのは、身震いするようなおぞましさだった。
{そっか。
でもトヌペカは偉いね、それでも族長のお母さんを手伝って、偵察に行ったり、テイネ[仮]の面倒を見たり、大人よりもずっとしっかりしてる。
トヌペカはそんな情けない大人にはならないよ、大丈夫。}
トヌペカは不思議そうにマフタルを眺めた。
そんなふうに言われたことはなかったし、自分で考えたこともなかった。
群族を率いるカリスマである
娘に多くの期待を背負わせることを自分に戒めているようなきらいがあった。
{へぇ意外。
あのヤクザ気質・・・いえ、並外れた威厳を備えていらっしゃるから、
ガンガンスパルタ子育てなのかと思ってたよ。}
{それは、多分姉さんの事があったから。。。}
そう言いかけてから、トヌペカはああそうだったのか、と気づいた。
父親似、と言われるトヌペカに対し、7つ年上の姉は明らかに母親似だった。
姉が母親似ということは
そして、トヌペカが覚えている最後の姉の姿も、目に涙を浮かべ、震えわななく手を叩きつけるようにして、
{お姉さん、どうして、、、?}
{わかんない。
魔族に、、ってことだけど、ユク話したがらんし。}
分別のつかない子どもという年齢ではなかったはずだが、トヌペカは姉の死に関する記憶がない。
ある時、姉がいないことに気づき、さらに、いつからいないのか思い出せなかった。
けれど今になって思い返すと、ある時を境に変化と言うか、何かがすとんと欠落したような感覚を覚える。
それは、ユクは真相を知っているに違いない、姉の死が彼女に変化をもたらしたのか、
単に、姉と接している母というものを見ることがなくなったということなのか、判別が難しかった。
トヌペカ自身は、小言やお説教を別にすれば、
姉の死に、
そして姉は死んでしまったから、その自責はずっと消えないわけで、ずっとそんな思いでいるのはどんなに辛いだろう。
{あたしが言ってあげたいよ。
族長なんて割に合わない役割を、愚痴の一つも言わずにこなしているのも、
それが先祖代々の伝統だからというのもあるだろうが、
{それに、トヌペカはそう言うけど、やっぱり仲間がいるってイイことだよ。
お母さんも、群族の仲間がいることで救われてたんじゃないかな。。。}
{へっ、あんな奴ら。
したっけ、あたしのカレシになんなら、あんたもう仲間しょや。}
マフタルの胸中では、トヌペカにとっての群族が、今は帰らぬ者となった自分の同胞に重なっていた。
なのでトヌペカの屈託のない返答には虚を突かれ、言葉を継ぐのも忘れてトヌペカをまじまじと見つめた。
{なしたのよ、鳩が豆鉄砲食らったような顔して。}
トヌペカに肘で小突かれ、マフタルに笑顔が戻った。
遺骸を積み上げた塚の傍らで、付き合いたての恋人たちは声を忍ばせて笑った。
しかしそうではなかった、二人の行方どころではない騒ぎが、城砦に巻き起こっていた。
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