第544話 獣との対話#1
「疲れたね、、休もっか。」
ベンチ代わりに丁度いい高さで、雪から張り出しているダケカンバの幹がある。
積もった雪を払って、2人ぶんのスペースを作った。
並んで腰掛けるも、お互いに毛皮服と毛皮外套に身を包んでいるもんだから、触れ合う感触ももどかしい。
心が通うかどうかは別として、アマロックとは会話は可能なんだから。
アーニャ/ワーニャばっかり言ってないで、あたしは”アマロックと”もっと会話するべきだろう。
しかしここは、
ぶっちゃけ、話すことがないのだ。
なんとか話題をひねり出すとしたら、、スネグルシュカのこととか?
姉弟オオカミのことは早々に打ち明けたアマリリスだったが、
スネグルシュカのことは、アマロックに伝えていなかった。
昨年の冬、竜の岬の入り江に現れた人魚の時のように、
それを自分だけの秘密にしておきたい、という願望ともまた違っていた。
スネグルシュカは、すくなくとも魔族ではない。
アーニャとワーニャの出自に関するアマリリスの空想、
意地悪な継母にいじめられて故郷を出たとする創作を魔族は理解しないのだから、
というのと共通する文脈で、スネグルシュカのことを話してもきっと通じないと思った。
それか、至極真っ当な評価、つまり幻覚扱いされて精神異常と思われるのもシャクだ。
他には、、そう。
「例のこと。。。」
「うん?」
「アーニャとワーニャを見逃して、ってお願いした時の、”交換条件”のことね。」
それは、何週間も前に途切れた会話の続きだった・・・・・
”それじゃぁ――”
姉弟の姿をかき消す雪が降りしきる中、魔族はアマリリスをじっと見据えて言った。
「それじゃぁ、
”キター!!”
アマリリスは内心ガッツポーズを作った。
いや待て待て、がっつくなったら。
ちょっとは恥じらってみせたほうがいいよね??
ところが。
「――きみのいちばん大切なものをどこに仕舞ってあるか、教えてくれ。」
アマリリスは目をパチクリさせた。
いちばん大切な、、?
どこに、、?は?
手元にないものってこと??
何だか、とんちというか、なぞなぞみたいな雰囲気もあるけどそういうこと??
あげたいけど、あげられないものなんだ?? あたし❤(こらっ)
じゃなけりゃ、今日のあたしのテンション、みたいな。。
何か気の利いた返事をしないと自分の沽券に関わるような、妙な思考回路に陥ったアマリリスは、
しばらく考えさせて、という回答にしてその場は逃れたのだった。
「――まだ、答えが見つかってない、、、
考えられてなくって。」
だったら話を振るなよな、と自分でツッコミを入れそうになる。
未だに交換条件が成立しないんだから、もともとの助命の話もナシだ、なんて言うかしら。
アマリリスは上目遣いでアマロックの顔色をうかがった。
「そうか。
構わないよ、気が済むまで考えればいい。」
「うん。。。」
てかそんなことを聞いてどうするの??
という質問も、会話を続けるという目的には良いだろうが、
自分が答えを与えないうちから逆質問というのは感じが悪いというものだ。
それに、アマリリスは結構真剣に、その問いの答え方を考えていたのだった。
一つの答え方は、アマロックに対する、この溢れんばかりの愛。
仕舞い場所はもちろん、この胸の中よ❤ほら見て、っていうやつ。
それはそうなんだけど、ベタだなっていうか、それだと仕舞ってなくてさらけ出しちゃってるよね?
でもって、そもそもムリ。言えないし、そういうことじゃないって気がするのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます