第188話 北方からの来訪者

最初、アマロックかと思った。

毛並みの感じや、色合いがよく似ていたせいだ。

けれど顔つきや体格がアマロックではない。

個性として違うのではなくて、全体的な雰囲気のようなものが違う。


牝だろう、と直感した。

当然、オシヨロフの群のオオカミではない。


しばらく間があって、背後の木立から、後続のオオカミがわらわらと現れた。

5頭、7頭、10、、。


アマリリスは黙って、しばらく立ちつくしていたその場所にしゃがんだ。

冷静なつもりだったが、心臓はトクトクトクトク、鳴りやまなかった。


サンスポット達について、かなり北の方までやって来ていることを思い出す。

隣の群の縄張りに入ってしまったのだろうか?

――いや、そんなはずはない。

ここはまだ、アマロック達が普通に狩をする場所だ。


北隣の、ヘラジカを狩る女首領の群との関係は、比較的良好だと聞いている。

そうすると彼らは、この困窮に際して、オシヨロフの群との共闘を申し入れに来た協力者なのか。

オオカミに限って、それはないように思う。

だとすると、やはり侵入者で、敵なのか。


女首領だと目をつけた1頭を、穴の空くほど見つめた。

けれど当然ながら、その表情から、あるいは目に映る何かから、彼女のオシヨロフの群に対する思惑を、読み取ることはできなかった。


十数頭の群は、少くともその場で遠吠えをあげて示威行動をするようなことはなく、女首領を先頭に、わらわらと斜面を下ってきた。

雪ウサギが殺されたあたりで、女首領は周囲の匂いを嗅ぎ、耳をはためかせた。

取り巻きの一頭の黒オオカミが、血の染みた雪をかじり取り、飲み下した。


いまさらだが、アマリリスは自分が風下に位置していることに気づいた。

オオカミたちが彼女に気づくことはなく、やがて列をなして、沢の下手に歩いていった。


ほっと溜め息をついて、雪が舞いはじめた空を見上げた。

日が翳り、急速に気温が下がってきている。

今日はもう、帰らなければならない。


サンスポット、アフロジオンと一緒にすれ違った、ヘラジカの群を思い出した。


・・・どうか、

どうかあのオオカミたちが、せめてオシヨロフの群とは無関係な放浪の狩人でありますように、

サンスポットや、アフロジオンたちに、危害を加えたりしませんように、、、


心の中で念じてから、この森で何かを祈ることの無意味と、それに派生する縁起の悪さに気づいて、唇を噛んだ。


大丈夫、そんなことにはならない。

あたしが、そうはさせない。

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