第293話 再侵入
実験棟と母屋を結ぶ廊下をちらりと確認してから、クリプトメリアは異界からの訪問者に視線を戻した。
「やはり、入り込んでいるか・・・」
「ウチとお隣さんを行ったり来たりしてるみたいだけどな。
どっか行っちまうつもりはなさそうだ。」
「この間の投げっぱなしのヤツなら、しばらく経つよな?
お前らと、森の中で出くわさんものなのか。」
「向こうが、おれたちを避けているんだろう。」
「なるほど。オオカミは恐れるのか。
だが人間は襲うと。
厄介なヤツだな。」
「食い残しをちょろまかされるぐらいで、大した害はないから放ってある。
心配なら、あんた殺れ。」
「もっともだが、おれが殺られる確率の方が高そうだ。
ファーベルを助けると思って、協力しないかね。
おまえも心配だから、教えに来てくれたんだろう?」
「イヤらしい言い方するね。」
アマロックがにやりと笑った。
「二つ北の岬の先の川、分かるか?」
「ああ。河口のすぐ上が滝になってるやつか?」
「そうだ。
滝を登ってしばらく行くと、川が三ツ又になってる所がある。」
「ふむ。」
「そこの左岸あたりで、おとといヘラジカを殺した。
でかいやつだから、まだ残ってるだろう。
待ち伏せしてれば、食いに来るかもしれない。」
「なるほど。
ってお前、そんな近所に餌を撒くなよ。」
「以後配慮することにしよう。
あんたから、シカに近所に来ないように言っといてくれ。」
「ったく、イヤらしい物言いばかり覚えやがって。
もっと高尚な人間の脳を食ってこい。」
「それでダメなら、アマリリスを使ったらどうだ
生きたまま森の中に鎖でつないどけば、食いに来るだろう
そこを、ズドン
ちょっと勿体ないが」
「・・・さっきの冗談のほうが面白かったな。」
「おれは冗談なんか言わないよ」
それはクリプトメリアも分かっていた。
魔族の言うことに本気も冗談も、真実も虚偽もない。
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