第538話 女帝陛下の恩賜#1

「エリヴァガル河の川面から、実に多くの魂が天に還ってゆくのを見ました。」


女帝は親しげな、悪戯っぽいとさえ言い表しうる、興味を惹かれた様子の眼差しを2人に据えて言った。


「あれらは、先の大戦おおいくさ――、

こちらにおられる大元帥をたすけて、我が国に偉大な勝利をもたらし、

タマリスクの銃火の前に散っていったつわものたちですね。


彼らの無念は、帝王から臣民にいたるまで、帝国の心残りでした。

ありがとう、国家を統べる者として心から礼を言います。


そなたたちに褒美を取らせます、何なりと欲するものを申しなさい。」


「もったーーいのーーう、ござりましゅるっ!

したらば、陛下!!」


スネグルシュカはがばと顔を上げ、女帝の前に、両手の指を行儀よく揃えた姿勢で、

物怖じすることなくはきはきとした口調でこたえた。


うれいとうるわしのパンノチカ令嬢に、陛下のお持ち物をおたまわりくださりませ~~。

それも、陛下がいちばん大切になさっておられるモノを、頂きとうござりましゅる~~。」


身の程知らずにも程があるようなスネグルシュカの言葉に、大総帥ゲトマンは眉をひそめるとともに、ニヤリとした。

周囲にいた将軍や貴婦人たちも、子供らしい素朴さを認めてほほえんでいた。

女帝はひとり、真剣な表情で思案していた。

気分を害したわけではなく、スネグルシュカの上申を熱心に検分していたのだった。


「言うまでもなく、『いちばん大切なモノ』が、妾には数多あまたあります。

なによりもこの帝国そのもの、王座を継承する世継ぎたち、心身を悦ばす情愛、詩作に絵画の芸術。

その中で、そなたたちに下賜できるものといったら――

そう、そう。」


女王の目に、キラリと星が瞬いたかのようだった。


を取らせましょう。

先日、世話係と、孫の家庭教師と、窓拭き掃除人の奇跡的な協業のすえに、

鳥籠と、ドアと、窓を飛び抜けて逃げ出してしまったのです。

妾の大事な小夜啼鳥ピドールカが。」


スネグルシュカは困ったような顔で、アーニャの腕に抱かれたハリネズミに話しかけた。


「え~~っと、こういう文脈で

トリ』って、アリだったかなぁ??」


「目印は金の羽根です。

冠羽はルビー、目はサファイア。

毎日、真珠の卵を産みますよ。」


「・・・アリです!」

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